かなり昔から続く、イタリアの古く大きなマフィア、ボンゴレファミリー。
10代まで続いた現在のボスは歴代ボスの中でも、トップクラスの戦闘能力を有していた。
ただし、それは戦闘時のみで、普段はドジでおっちょこちょいで、ダメ出しされる彼。ボンゴレファミリー10代目、沢田綱吉。
そんな彼に付き従い、守る6名の守護者。
ボスを大空とし、守護者は嵐、雨、晴、雷、霧、雲とされていて、独自の立場で大空を守っていた。
そんな守護者たちに、今日は緊急収集がかかった。
”いま居るものだけでかまわない、11時までに第1大広間へ集合せよ”との放送が流れたのだ。
そんな集合、ここ半年ぐらいかかったことはなかった。
用事があるときは、ツナ自身で彼らに伝えていたから。
不思議に思いながらも、遠くに仕事に出かけていた霧以外の守護者たちは、11時になる10分前に広間に集まった。
丸い楕円状のテーブルに各自で座る。
テーブル上には、豪華な食事が置いてあった。ついでに朝食をとろうということなのだろう。
ボスであるツナに惚れている皆としては、少しでも近くに座りたかったが、奪い合いを危惧してか席に名前が入れてあったために守護者たちはスムーズに席についた。
呼び寄せた当のツナはまだ来ていない。
集合をかけたときは大抵こうだ。ボス業というのは忙しいために時間が取れにくいという。
・・・だが、今日は8分前に彼は来た。
「来てくれてありがと、皆。さっそくだけど、今日特に用事はないんだ」
「じゃあなんで僕らを呼んだわけ?」
「オレが皆とご飯食べたかっただけです。最近忙しくて皆と会えてなかったから・・・駄目だったかな」
ヒバリの問いかけにツナは照れたように頭を掻いて、頬をそめた。
ツナのいうとおり久々に見た彼の姿に、守護者たちの機嫌は急上昇である。
「・・・そういうことなら仕方ないね」
「10代目・・・っ! 光栄です! さあ食べましょう!! 」
「俺もツナに会えて嬉しいしな」
「食事は皆で取ったほうが美味しいからな! 沢田!」
「ボンゴレー! 可愛いー!」
すでに最後のランボの言葉は、関係がなくなっている。
ツナの席の右は、雨である山本武、左は自称10代目の右腕な嵐の獄寺隼人だ。
本日のツナは、品の良いダークグレーのスーツに身をまとい、長く伸びたえりあしをゴムでくくっていた。いつものように。
テーブルに広がる料理は、一人一人の好みを考えて作られている。
獄寺の前には本格イタリアンのスパゲッティ、ヒバリには懐石料理、了平にはケモノ肉の姿焼き、ランボにはブドウなど果物、山本には寿司、ツナは基本的にあまり好き嫌いがないが、今日は中華だった。
「ツナ、この寿司親父の並みに旨いぜ。食ってみろよ」
「・・・これは自分で食べちゃ駄目なの?」
「駄目ー。ほら、あーん」
山本がツナの口に寿司を運ぶ、箸ではなく素手で。
(そりゃ素手で食うもんだけどさ・・・、人に食べさせるときくらい箸使えよ!)
そう感じながらも、守護者たちがツナに食べ物を食べさせたがるのは今に始まった事じゃないので、ツナは口を寿司に運んだ。
「ほんとだ、美味しー。たかしさん負けてられないね」
「だよなー」
「10代目、俺のもどうぞ!」
「ありがと、獄寺君。また今度ね」
ツナは恥ずかしいからという理由で、一度の食事につき一度までしか人の手から食べない。
常ならばヒバリや骸も参戦してくるのだが、ヒバリは丸テーブルのため届かず、骸は居なかった。
ちなみに獄寺はいつも忘れていて、後出しだ。
いつものように落ち込んだ獄寺を、いつものようにツナは宥めて、食事を続けた。
たわいもないこと、仕事のこと、思い出、これからのこと。
そんな雑談を交わしながら、いつものようにこの食事会は終りを向かえる。
ただしツナの皿にはもやしのかたまりだけ残して。
彼に食べ物で嫌いなものはほとんど存在しない。この不可思議物体のみを除いては。
できれば口にしたくない。だけれども食べなければ。栄養のためにと説教する彼の言葉を彼は信じて曲げないから。
ツナは渋々とそれを口に運んだ。
もの凄く不快なプツリという食感につづき、わけのわからない味がつづく。
今にも吐き出したい気持ちをおさえ、表情には微塵も浮かべずに、のどの奥に流し込んだ。
ふう、とツナが一息ついたその瞬間、この部屋の空気が動いた。
ピリリと空気がしまっていて、殺気にあふれている。
先ほどまでののどかな雰囲気はどこへいったのか。
「おまえ!沢田じゃないな!」
「てめぇ・・・10代目をどこへやった」
「誰だ!」
この部屋にいる5人のすべてが、武器、またはそれに準ずるものをツナに突きつけていた。
普通なら守護者である彼らが、主であるツナに対してそんなことは許されない。否、ありえない。
だが今はどうみても普通の状況じゃなかった。
ツナはぶるりと身を震わせた。
「・・・っど、どうしたの、皆? オレは沢田綱吉本人で間違いないんだけど」
「嘘いうな。ツナはお前じゃない」
「さっさと白状したほうが身のためだよ。どちらにしろ咬み殺すけど」
山本は顔は笑ったままだが、心情は顔に似つかわしくないようだ。のどに突きつけられた刀が軽く押し付けられる。
ヒバリは、刃物が飛び出ているトンファーを後頭部につきつけて。
獄寺は極短の導火線を持ったダイナマイトを、了平は凶器である自身のこぶしを、ランボは小銃をそれぞれツナに向けている。
少しでも動けば、どこかが傷つく。それどころじゃすまないかもしれない。
そんな状況で、当然ツナはわずかに震えていた。
「な・・っ、オレはオレだよ! なんでそう思うの?」
「10代目は確かにもやしがお好きではない」
「苦手なのを隠したいらしく、きさまとおなじく表情には出さないがな!」
「でも、ボンゴレはそれを我慢しながら食べるんだ」
「君みたいに一番最後じゃなくて、最初か途中に必ずね」
「だからお前はツナじゃない」
「どこへやった」
獄寺、了平、ランボ、ヒバリ、山本と順よくしゃべっていく5人の声が、最後に重なった。
それと同時に、殺気も膨れ上がる。
「そりゃオレだって、食べる順番くらい気分で変わるさ!」
「いーや、おまえはツナじゃねー」
「な・・リボーン・・・?」
「リボーンさん!」
音も立てずに開いたドア。
そのドアから現れたのはリボーンだった。
リボーンの登場により、ツナの雰囲気ががらりと変わった。
安心したとか、怒ったとか、呆れたとか、そんなことじゃ説明がつかないくらい、あたかも他人のごとく様変わりした。
「えー、オレ結構きつく縛っといた気がすんだけどな。亀甲縛りで」
「ツナは性的なことに信じられないほど疎い。だからてめーは絶対ツナじゃねー。それとそういう単語をツナの姿で口にするな」
「オレはツナだって、何度言えばわかるんだよー」
「万回言われたって信じねーな」
ツナはいろいろ突きつけられたままで気軽に声を返す。
口調が明らかに普段と違った。
リボーンも守護者たちに何を言うわけでもなく、少し親しそうにツナと声を交わしている。
「小僧、そいつはなんなんだ?」
「ツナだぞ、体はな。それ以外は知らねー」
「だからぁ。体はとか何とか、オレはツナだってば」
山本が代表してか、リボーンに尋ねた。
リボーンも今の今までツナに気絶させられていたのだから、現状についてそうわかってはいなかった。
だけれど、リボーンの言葉に少し安心した守護者たちは、密着させていた武器などを引いた。
獄寺が、リボーンたちの会話から最悪の状況を想像でもしたようで、真っ青な顔をして打ちひしがれた。
「体だけって・・・そんな、じゃあ10代目はどうなって・・・!」
「生きてるよ」
「どこに生きてるっていうんだ!」
「ここに」
にやりと笑ったツナの顔。
ツナが指差したのは自身の胸だった。
「オレこそが沢田綱吉だ」
「ふざけんな! リボーンさんの言うとおり身体だけは10代目のものかもしれんが・・!」
「なんてね」
ツナはちょろっと舌をだして言った。
皆は目をまるくした。
こんなシリアスな雰囲気に冗談など。いや、それよりも今の今まで自分はツナだと言い張っていたというのに。
急に嘘を言ったと認めるなんて。
「オレはツナだ。でもあいつじゃない。否、ダメツナじゃないって言ったらわかりやすいかな?」
「へ?」
「あー説明面倒だな。わかりやすく言うと・・・二重人格みたいな?」
「はぁ!?」
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とりあえず二重人格ネタで・・・いいですか。
説教する彼の言葉を彼は信じて曲げないから。は、リボーンの言葉をダメツナは信じて曲げないから。
っていう、わっかりにくいリボツナなんですけど・・・わかんないですよね。
正直、ツナの身体に骸が入ったのも妄想してた(憑依弾
07.05.18