* 風のよりどころ * -1-
ガタン バギャッ ゴォォ キャアー
かろうじて入ってくる音。 母屋がうるさい。
大きな音に、豪風、叫び声。 ああ、あれは母の声か。
ガッ ゴトン
音が近づいてくる。 ああ、使いのものが月に一度食べ物を置いていく以外でこれは何年ぶりだろう。
扉が開く音がいくつも聞こえる。
「…っ! ち……と探せ。 ここにある……だ」
遠くて聞き取りづらい。何を探しているのだろう? 何も無いというのに。
次の瞬間、勢いよく扉が開かれる。 後ろには明るい光。 炎だろうか。 久しぶりの外界の情報にふと酔いしれる。
誰かが立っている。 逆光のせいでよく見えないが、使いのものとは背丈が違う。 2メートルはあるのだから。
「ん? 誰だオメー。 団長ー ガキが一匹いたぞー?」
大きな声に耳がキーンとなる。 その声に幾人かがやってきた。 恐らくダンチョーとやらも含まれているだろう。
そのダンチョーなのか、リーダーらしき者が話しかけてきた。
「……女、の秘蔵のモノを知らないか。 静物か、生き物かはわからない」
「……しらなぃ」
久しぶりに声を発したものだから酷くかすれる。 は私の一族。
「助けて」
「鎖でつながれているのか…… お前は何者だ?」
「家の跡取りだった……昔は」
そういえばこの男たちにも父様にまとわり付いていた何かが見える。
父はそれを当主になるためのものと言っていた。 生まれつき私にもあり、そしてオトウトにもあると。
「そうか……。 ウヴォー、その娘を連れて来い」
「了解」
2メートルはある、大男が足の鎖を引きちぎり、私を抱えた。
「ちんまいなー…… おまえ、ちゃんと食ってたのか?」
「そこ」
今月の食料が少し残っていたのでそれを指した。
大男は無言で立っていたが、しばらくするといつの間にか集まっていた十人ほどの人、そしてダンチョーとその場を立ち去った。
遠い昔に記憶した母屋は跡形もなくなっていた。
「クス」
-2-
「……う、念が目覚め……うだ」
「そ……、起きないね」
「たたき起こすね」
「やめろ、フェイタン」
遠くかすれていた声がはっきりと聞こえてきた。
ゆっくりと目を開けた。 明るい。 ここは何処だろう? 私の部屋、じゃないのだろうか。
「お、気が付いたみたいだ。 大丈夫かい? 名前は言える?」
<
銀髪が特徴的なお姉さんがおでこに手を当ててくる。
「……大丈夫。 私は=。 ここはどこ?」
上体を起こして、周りを見ると色んな人が居る。 廃墟……のような場所だ。
「幻影旅団。 盗賊の隠れ家…と言ったところか。 まぁ隠れてはないがな」
オールバックの男が言う。 ダンチョーと皆に呼ばれていた男だ。
そうか、私はこのダンチョーさん達に連れてきてもらったのか。 良かった。
「そうですか。 連れ出してくれてありがとう」
「お前は何故あそこに居た? あの家の跡取りにしては扱いが酷かったな」
「もう一人跡取りが生まれた……女の私は必要なかった。 それだけです」
淡々と喋ると先ほどの銀髪の女があっけらかんとした口調で言った。
「女も男もないだろうに。 どれだけ古い家系なんだかね、気が知れないよ」
それから皆の名前を教えてもらい、私を直接運んでくれた大男、ウヴォーギンから食事も持ってきてもらった。(主に肉
「オレ達はお前の一族を全滅させた。 それは家が隠している秘蔵の品が目的だ。 本当に知らないか?」
「知らない。 あそこは私を閉じ込めるためだけの場所、何も無いはず」
「ふむ……ところでお前は念が使えるな? 何の系統だ」
ダンチョー…もとい団長もといクロロは悩んだように一時あごに手を置いたが、まだ質問をしてきた。
念とは何だろう。 悩んでいると団長……クロロがこれだ、と言ってくれた。
クロロの周りにはいつも父がまとわらせていたものが膨れ上がって見える。 これは念というのか
「うん。 基礎の四大行だけ。 系統?は、特質」
「よし、今から基礎以上のことを教える、それと基礎体力をあげよう。 念については基本的にパクノダに聞け、特質だ」
まわりがざわつく。 フェイタンと言う小さな男が反論した。
「団長。 そんな奴鍛えてどうするつもりね」
クロロはニイ、と口の端だけ上げた。
「蜘蛛に入れるのさ」
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