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Just Like Heaven 2-恋人はゴースト-.



アパートの管理人の部屋に赴いたその足で、菊は本屋に向かった。引っ越してきたばかりではあるが、コンビニなどは一つしか知らなくとも、本はジャンルを問わず好きなので本屋だけはすでにいくつか知っている。その中でも古書が多いところを選んだ。
『死者への出会い』
そんな題名の古めかしい本を手にとってみる。
ジャンルは問わずと言ったとおり、こういう類のものも余興で見たことはある。または、妄想の柱として。普通に楽しめたが、やはり菊にとっては物語の世界、常に心の中でどこか馬鹿にしてきた。
やはり買うべきか。悩んでいると、店員らしき青年が傍によってきた。
「・・・それは、古い。今ならこっちをオススメする・・・」
相当背の高くガッチリした、だけどのほほんとした雰囲気をまとう青年だ。アフリカ系でもアジア系でもなさそうだが、肌は少し色づいている。菊と同じ黒い髪はくせっ毛なのか、くるくると渦巻いていた。声も低いが気が抜けているし間も抜けている、そんな青年。
「霊の物質化?霊視?・・・・・・・死者・・・との交信が目的か?」
「いえ、交信はまったく問題ありません」
雰囲気に飲まれうっかり返事をすると、青年はこくりとうなづいた。
「とっておきのがある・・・」
そうぼんやりと呟くと、彼は4冊の本をとりだして菊に渡した。まあ、買うあてもないしこれでいいか、そう考えて埃くさいレジに向かった。


買った本を片っ端から読んでみる。なかなか興味深いことが書いてあったが、今はいい。全ての交霊術系のページを開いて全て試してみた。出てくる気配はない。パチモンをつかまされたか。それとも本屋の彼も本に騙されているのか。
しかし呼び出さないと説得もなにもあったものではない。なにか、彼が出てきそうな手はないだろうか。本には心霊現象は同じ条件下で起こりやすいと書いてあった。ゆっくりと、彼との記憶を辿り、彼とはじめてあったときのことを思い出す。
確か、紅茶を入れて、こぼして、彼は。
菊は急いで紅茶を入れた。自分は緑茶派で、店が見つからないのでしかたなしに紅茶を買ってきただけだったが、これは上手い偶然かもしれない。
紅茶により温められたカップ。食器棚から見つけた愛用していたと思われるそのカップには、達筆な手書きでALFREDの文字。恐らく、これが彼の名前だ。
「・・・アルフレッドさん、出てきてください。出てきていただかないと溢しますよ。あなたの嫌いな紅茶を、床に」
すると、何もなかったはずの空間に彼が突然現れた。
「やめろ!」
覚悟はしていたものの吃驚した菊に怒鳴りつける。ここは菊の住居でもあるから、わざとこぼすつもりは全くないのに。
「君はどういうつもりなんだい?さっさと出て行ってくれないかなぁ、紅茶もそうだけど、オレ、部屋に他人入れるの嫌いなんだよ」
いざ目の前にいる男が幽霊だとわかれば、別次元の恐怖がこみ上げてくる。菊はゆっくりと深呼吸した。
「あなたと話がしたかっただけです。他に手段が思い浮かばなかったので・・・」
「オレには話すことなんてないよ!君さえオレの部屋から出ていってくれればね」
怒りっぽいが陽気な男、そんなイメージを覆すかのごとく男は菊を睨みつけてきた。経験は薄くても修羅場は乗り越えてきたという顔つきだ、なかなかの迫力を持っている。もちろん、彼よりずいぶん長く生きている菊がそれに怯えるのは、小さなプライドが許さない。
怯えからでなく、自然に見えるように注意しながら彼から目をそらす。
「はじめから、やりなおしましょう」
若者に恐怖を覚えるわけにはいかないのだが、それでも相手が幽霊だのなんだのという非科学的な存在の場合は別である。武道には精通しているが、物理的攻撃で相手にダメージが与えられるかどうかなんてわからないのだから。
落ち着いていこう。舐められたらそこで関係が決まってしまう。人間関係は第一印象から始まる、まぁもうそんなのとっくに過ぎ去っているのだが気にせずいきます本田菊、今度はしっかり相手を見、裏返らないように少し低めに声を出す。
「私は本田菊と申します。菊のほうがファーストネームです。あなたの、お名前は?」
親しげな雰囲気はかもし出せなかったが、声が裏返らなかっただけ及第点である。とうの幽霊は戸惑ったように視線を迷い、菊の持つカップに視線をやってから答えた。
「ア、アルフレッドだ」
今、たしかに彼はこれを見た。この、アルフレッドと書いてあるカップを。
「・・・・・・あなたの、苗字は?」
「・・・っ君に教える必要なんてないんだぞ!オレの名前がなんだって言うんだ!君さえ出て行ってくれれば何の問題もないんだ!」
アルフレッドは苦しそうに叫んだ。
全てを覚えていない恐怖に、同情するが、こちらとて金を払ってこのアパートに入ったのだ。金はありあまるほどあるが、庶民感覚を忘れる気はない。
一歩、二歩と彼があとずさるたびに、菊はそれをゆっくりと追った。
「私は精神を病んではいない、あなたが私の作った幻でもない。あなたは、幽霊です」
「そんな非現実的なこと、信じられるわけないじゃないか!君がおかしいんだよ!」
男アルフレッドの顔は蒼白で脂汗が鼻頭を光らせている。彼は現実から逃げるようにさがっていく。
「・・・落ち着いてください、私はあなたに危害を与える気はありません。最近、日常におかしなことが生じていませんか?」
なるべく優しい声音でそう言うと、顔面蒼白にしながらアルフレッドは答えた。
「家に、不法侵入者がいることかな・・・」
「あなたは、この部屋以外でどうやって過ごしているのですか。最近・・・私以外で、最後に会話した人は誰ですか?」
あとずさる一方で、彼は答えない。否、答えられないのだ。
「私は、全て答えられます。・・・・あなたは、死んでいるのです」
「そんなことあるもんか!」
アルフレッドは叫んで、また大きくあとずさる。菊は距離を保つため近づこうとするが、それはテーブルによって遮られてしまった。
・・・ここにテーブルがあるなら、何故彼はここから先にいけた?
菊は驚愕した。なんとアルフレッドの体は丸いテーブルをものともせずそこに存在している。いや、アルフレッドは見えているだけで、存在していないからこそその状況がありえているのだ。彼の上半身だけが、テーブルに乗っかっているように見える。
菊の視線を追って自分の状況をみたアルフレッドも、また驚いていた。大きくて手ぶりをして、頭を抱える。
「Oh my GOD.....!」
「あなたはすでに死んでいる」
ちょっぴり意味は違うけどケンシ○ウの名ゼリフが使える機会が出来て、すごく・・・不幸せです・・・。
落ち込むかと思ったが、アルフレッドは掴みかかってきた、焦って引くも、反射神経は特別良いほうではない。襟をつかまれる、そう思ったが衝撃は来なかった。彼はテーブルや電話に触れられないのと同様に、菊にも触れるのはかなわないらしい。
そのままアルフレッドは菊の顔に腕を突っ込んできた、何を感じるでもないが、なにやら気持ち悪い。
「・・・離れてください」
「っじゃあ出ていけよ!」
「死んでしまったあなたに所有権はない、この部屋は私のものです。あなたが立ち去ってください」
アルフレッドは拳を握りしめ震わせた。これまで物事の解決手段は暴力に委ねてきたのだろうか?可哀想に、触れることも許されないのでは信じてきたものがみなパアだ。
菊の彼を見つめる視線に哀れみが混ざりはじめたとき、突然アルフレッドが突進してきた。
思わず身構えるも、彼との接触は不可能だと思いだす。自分をすりぬける瞬間の彼の目に、涙が光ったような気がした。のもつかの間、菊の真後ろは壁それも窓つきだったため、恐らく自分ぐらいしか聞こえないだろう雄叫びをあげて猪突猛進イノシシは4階から落ちていった。
「御冥福をお祈りします・・・」
窓の外に一礼してふり返れば、落ちていったはずの彼がそこに。
「ぜぇーったい!出ていってやらないんだぞ!幽霊ってのも信じない!怖いからね!」
どんだけわがままなんですかこの幽霊!


    *    *    *


フェリシアーノに、寂しくて酒が増えちゃったから幻の人が見えちゃうんだよ!なんて言われたが、飲まずにはいられない状況を作り出してくれるのもまた幻の人だ。
菊がテレビをつければ、彼はテレビの前に立ち大声で歌いだした。
「O! say can you see by the dawn's early light!What so proudly we hailed at the twilight's last gleaming!」
聞き覚えがある、The Star-Spangled Banner確かこの国アメリカの国歌だったと思う。
彼のせいで映像は見えないし、音もほとんど聞こえない。まぁいい、見たいアニメは全て録画してある。彼もいないときがあるから、そのときに一気に見ればいいことだ、今は仕事もしてないし。
菊がテレビを諦め漫画を手にすれば、
「O'er the ramparts we watch'd, were so gallantly streaming?And the Rockets' red glare, the Bombs bursting in air!」
やはり大声で歌いまくる。無視して読み続けられないこともないが、漫画は静かに読みたいものだ。
どこにでもついてくるし、パソコンに向かっても妄想に浸ろうとしても、彼の姿がちらつく。邪魔くさい、一人で暮らしている感がまったくない。最初の頃は見えることが稀だったのに、最近じゃ彼の姿が見えない時間がない。
アルフレッドがいくら出て行けと言いはっても彼は所詮幽霊だ。実行力に乏しい。人付き合いというのは距離感を楽しむものだと思うし、四六時中いるのは煩いが共存してみせよう。人には慣れというものがあるんだから。
そんなことを考えはじめたばかりだったので、相手にはっきり文句は言いませんだって角が立つのは嫌なんです本田菊、これは辛かった。だが人間関係が辛いからニートをやっているわけじゃない。
「あの・・・歌うのはかまいませんが、もう少し音量を下げていただけませんか。近所から苦情が来てしまう」
「試してみたんだけどね、オレの姿他の人には見えないみたいなんだ、だから近所迷惑にはならないよ!」
そう言ってまた歌いだす。今度はイギリスの民謡か?彼が話すのは完全なアメリカ英語だが、歌はクイーンズイングリッシュっぽい発音だ。多分。
騒がしい騒がしい。酔えば少しはこの歌声が聞こえなくなるかと冷蔵庫に手を伸ばす。
冷蔵庫の中には、仏頂面のアルフレッドがいた。
「勝手に人の冷蔵庫あさらないでくれるかい?」
「何言ってるんですか、あなたのものなどひとつもないでしょう」
外気を感じないのか。もう肌寒い季節なのに彼は半袖だから薄々感付いてはいましたけどね。驚きを隠しつつビールを取って閉める。
「また飲むのかい?」
「ええ、嫌なことから目が逸らせないかなと」
冷蔵庫の中にいたはずなのにもう菊の隣に居た。
暗に貴方が嫌なことですと言うも敵はアメリカン。つうじやしないし、酒の悪さについても教えられる。
ああもう、こうもじっとみつめられていたら飲みにくくて酔えないじゃないですか。相手は幽霊なんだから気遣わなくてもいいんですよ私。言っちゃえよ。うるせぇよジャイアン黙れって。いえ歌は上手いですけど。
そう思うのもやはり心の中だけでだった。培われた国民性はなかなか手放せないらしい。
外で飲もう、今の時刻ならフェリシアーノもあのバーにいるだろう。外出するにはまずこのダサイ部屋着をどうにかするか。
そう思って着替えはじめるも、アルフレッドの視線が痛い。
「・・・何でしょうか?」
ああ、できればトランクスの趣味には突っ込まないでいただきたい。菊はキャラTが着たい普通のオタクだったが、さすがに家族に止められてしまった。その反動が見えない部分に現れることくらい許してもらわなくては、オタクが生きにくいこの時代では死んでしまうのだ。精神的に。
ところがアルフレッドの見る部分はそこではなかったらしい。
「君・・・女の子じゃなかったの?」
「・・・・・残念ながら男です。んで恐らくあなたよりずっと年上です」
確かにアメリカに来て、男にケツを触られる異常事態は増えた。ソッチの道の方に気に入られた場合と、女に間違われた場合である。自分でも童顔だと思うから若く、否、幼く見られるのは諦めているが、女に間違われるのはいつまでたっても癪に障る。
そういえばなんだかんだいいつつ、菊が着替えるときアルフレッドは消えていた気がする。
もしかして、現れるコツをつかんだのではなく、消えることが出来なくなっただけじゃないのかこの人。
それにしても、彼が元々自分の出現・消失を自由にコントロールしていたようには思えない。確かに紅茶をこぼそうとしたときは出てきたが、消えるときも出るときも彼の意思も私の意志も関係なく神出鬼没だった。
誰かの意思でないならそれは何によって作用されているのか。私がわかるわけがない。彼のことなんて下の名前と容姿しか知らないのだから。
ちょうど思考が途切れたころ、菊は目的のバーについた。
もしかするとアルフレッドの活動範囲はあのアパート内だけじゃないかという淡い期待は崩れ去り、きっちり彼はついてきている。
「君、まさか飲む気なのかい?やめなよ体に悪いだけなんだから!」
「知ってますよ、アルコールが体に及ぼす影響くらい」
「いーやわかってないね!スクールで習うことなんて本当にわずかなんだよ!」
そりゃあアメリカは家庭科なんて教科ぶっちゃけ手抜きで、食育なんてほとんどしないから、彼からすれば習う内容は少ないのかもしれない。だが、アルフレッドがペラペラと話してくることはほとんど菊が日本での義務教育中に受けた内容そのものだった。
そんな長期的なもんより短期的な楽にすがりたいんですよおじさんたちは。こちらの人にしては良く知っている年下からの説教を聞き流して、バーに入る。
少し時間は早いが予想どおり友人がいた。こちらの姿を見つけると元気よく手を振ってきた。
「キークー!おひさぁー!」
「お久しぶりです、フェリシアーノくん」
軽い会釈をすると、彼はにこにこしながらかけよってきて、今度は小声で話しかけてくる。少し酔っているのか顔はほんのり色づいていた。
「もう、寂しいのなおった?幻の人いなくなった?」
興味本位ではなく、本当に心配してくれている友人の言葉に菊は胸が熱くなった。
こんなにいい友人がいるのに、彼女がいないからといって何が寂しいことがあるだろうか。もしアルフレッドが私の寂しさが作り出した妄想ならば、贅沢というものだ。
「残念ながら、まだ、いらっしゃいます」
そう伝えると、そっかーとフェリシアーノは眉を下げたが、すぐにヴェーと笑顔になった。
「今日はパーっといこうよ!あ、紹介するねー。今日友達になったんだけど、リンダにパーシー、エリザさんに、ヴァーニャだよ!こっちは親友のキク!」
ずらりと女性たちが皆、菊に注目する。よろしくお願いしますと頭をさげると、キュートとかなんとか聞こえてきた。みーんなフェロモン出しまくりの女性たちですけどね、絶対私のほうが年上ですからね、悲しいことに。
菊が席に着いたところで、また幽霊がさわぎはじめた。
「見るからに軽そうな男だな、君はこんなのと友達なのかい?」
「友人を侮辱するのはやめてください」
とげとげしい菊の声に反応して、女性陣と楽しげに話していたフェリシアーノがふりかえる。
やばい声に出してしまった。奥義・黙殺スマイル発動。つられて笑顔になった彼は再び会話に戻った。
菊はほっと息をつく。この幻の人は自分にしか見えないのだ、ここは徹底無視でいかないと、確実に菊の精神病院行きが決定してしまう。
さっさと消えてくれと望みつつ、グラスに入った酒のにおいをかぐ。悪酔いしそうな安物の酒だ、だけれど今はそれがいいかもしれない。
アルフレッドが目の前に掌を突き出してきた。
「NO!STOP!飲むなよ!」
お静かに。
「駄目だって!体に悪いって言ってるだろう?」
悪いと十分にわかった上での行動です。
「さあ、こんなところ出て何か食事をするんだ!」
今日は飲む気分なんで。
「越してきてから、ろくに食べてないだろ?」
食べてますよあなたの食う量が異常なんです。
「そんなの体に、ものっすごく悪いんだぞ!」
あなたは私の保護者ですか。静かにしててください。
家でもここでも酒を飲むことすらできないのか。イライラを押さえつつアルフレッドから顔を背ければ、心配そうな友人の顔。
まずい、声に出していたか?とりつくろうようににこりと笑えば、フェリシアーノも笑顔を返してくれた。
冷静になれ本田菊。相手の武器は声のみだ。今度こそアルフレッドを無視してグラスを握った。
「こうなったら、実力行使に出るんだぞ!」
できるもんならご勝手に、そう思ったのだが、不思議なことに急に手がグラスから離れた。そしてどういうわけか、非常に気持ち悪い。
何をしたこの幽霊、急いで周囲を見回したが、アルフレッドの姿はない。なんだろう、気味が悪いが再び飲もうとチャレンジする。が、また失敗。手をテーブルに叩きつけられた。
瞬間、自分の体からすこしだけはみ出しているアルフレッドの体が見えた。まさか、乗り移って操作とかいう最悪パターンだろうか。ガシャンガチャンとその攻防を2,3度くりかえしていると、さすがにフェリシアーノが声をかけてきた。
「だ、大丈夫ー?」
「あ、はい。多分寝不足のせいです」
凄く嘘ですごめんなさい。
「何時間寝たの?」
「6時間です」
「本当は10時間だぞ!」
「黙ってください」
アルフレッドがいらんチャチャを入れてきたので、思わず反応してしまう。しまったと思うが手遅れ、フェリシアーノの顔はますます曇っていく。
「キ、キクー。えっと・・・クスリとかキめてたりする?」
「い、いえ別に・・・」
「ジャンキーより怠け者なんだぞこいつ!」
「あなたよかマシです!」
ニートなんだからしょうがないじゃないですか。うっかり大声をあげてしまい、友人だけでなく店中の視線を集める。
これ以上ここに居たら、出入り禁止になってしまいそうだ。アルフレッドにコントロールされた手でグラスに入った酒をこぼし、迷惑料でその酒の三倍ドルを置いてから菊はふらつきながらバーを出た。後ろから友人の声が聞こえる。
「一人で家に帰れるー?」
YESの合図を返して夜風に当たる。そこまできて、ようやく菊の体からアルフレッドが全て出てきた。
「私、恥ずかしくてもうあのバー入りにくいんですけど・・・・」
「自業自得ってやつだね!」
酒を飲もうとしただけの代償がこれですか割に合いませんよ絶対。
アルフレッドは先ほどまでの不機嫌そうな顔とは裏腹に、にこにこと満面の笑みを浮かべている。
何故こうもアルコールに拒否を抱くのか、他人の菊がたった一晩の酒を飲まなかったことの何がそんなに嬉しいのだろうか。ほんとうにこの男は妙ちきりんな幽霊だ。
若々しい邪気のない笑顔を向けられて、菊は苛立ちが全て抜かれてしまったような気になった。
迷惑ではあったが、すべては他人である菊のためにしたことだ。
「アルフィーさん・・・」
少しだけ、親しみを込めてアルフレッドを呼んでみる。予想外に、彼は怪訝な顔をした。
「な、なんだいそれ気持ち悪いんだけど」
「・・・アルフレッド、の愛称だったと記憶していますが。友人やご家族にそう呼ばれたことはないんですか」
「思い出せないし、確かに間違った愛称ではないけどね、なんだか気持ち悪いから呼ばないでくれるかい!」
なんだとこのメタボ気味ゴースト。
人のせっかく歩み寄りを、踏みにじるどころかはねのけてそのままジャンプドロップか。
あなたのような巨体がのしかかってきたら折れますよ。ガチで。自慢じゃないですけどこちとら、いくら運動しても牛乳飲んでも背は伸びない体重増えない筋肉つかない骨太くならないんですからね。羨ましい通り越して憎いです欧米人のみなさんが。
「・・・・・・・・アルフィーさんアルフィーさんアルフィーさん」
「やめてくれっていってるだろー!」
アルフレッドが耳を塞いで叫ぶ。
「ああすみません。アルフレッドさんって長いんですよねー。私日本人ですから呼びづらくってー」
「じゃあアルでもなんでもいいから!とにかくその呼び方は変えてくれ」
「善処します考えときますまた今度。・・・ああ、意味は全ていいえです、アルフィーさん」
有害だ。この幽霊は私にとても有害だ。
とり殺される?そのまえに除霊してやんよ!




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あまりオリジナル成分が無いです。アルが紅茶を嫌いなのはきっと彼の影響。
アルフレッドのあだ名はアル:アルフ:アルフィー:フレッド:フレディだったので可愛いものをチョイスさせていただきました
フェリのお友達にエリザさんがいらっしゃいましたが、彼女に出番はなさそうです。
あとアルフレッドが歌う民謡とかがクイーンイングリッシュなのは、きっと彼が歌っているのを聞いて育ったから。育ったのはアメリカなんですけどね。
08.12.14