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バンドやろうぜ☆ -5-


「日本日本、ここなんかテンポが取れないあるー。コツを教えるよろし」
「ここはトリルと言いまして、指で玄を叩きながら引っかくような感じで弾くようにするんです」
「謝謝!」
「日本ー、ここどう行くんだ?」
「何度も言いますけど、こういうのは自分の力でやるから面白いのですよ?・・・ああ、一つ前の街の酒場に戻ってください。髭を蓄えたおじさんのクエストを、コンプリートすると交付をGET出来ます」
「OK、さすがだね!」
何度か同じ部分でつっかかるギターの音と、際限なく流れるゲームのBGMが部屋内で反響する。
本当に宣言したとおり、アメリカが毎日のようにゲームをしにくるようになった。正確に言うと、毎日来るアメリカを追いかえす口実が日本になくなっただけだが。
このたび日本がリードギターを担当することにより、中国は第二ギターになった。大体はリードと同じだがサビでは別の音律を奏でるようにしている。中国の負担が軽くなったと思えば、日本の心情も少し軽くなるような気がした。
背後でガチャリと音がした。バンドメンバーに集合をかけていたので、フランスとイギリスだろう。そう思って日本はドアを開けると、予想外の人が立っている。
「日本ー!兄貴ー!おっぱい触らせるんだぜー!」
「韓国さん・・・?」
現れたのは韓国だった。
韓国は三人組のなか、一人だけ別室なのを気にしてか気にしないでか、それともゲーム目当てか、ただ胸目当てか。それはわからないが良くこの部屋に遊びに来ていた。今日もそれだろう、タイミングが悪かっただけで。
「日本、俺と会えて震えるほど歓迎なんだぜ?大丈夫すぐにおっぱい揉んでやるんだぜー!」
「え、ちょ、ちょっと待ってくださ・・・!うわっ!」
ぎゅむ、と亜細亜にしてはでかい体格で抱きしめられる。
いつもなら止めにやってきて、代わりに巻き込まれてくれる中国はギターを手にしていたのでとっさに動けない。アメリカはゲームに夢中でこの事態に気がついてくれない。
「ちょっと、やめてくださいって!韓国さ、」
でかい手に、無い胸を無理矢理、揉まれた。
「や、いやです!・・・う、ひぁぁぁぁあああ!」
「・・・・・・っ何やってんだてめェー!!」
ゴイン、と鈍い音がすると同時に、日本の胸の上を動く手が止まり、ずり落ちた。
見ればイギリスがでかい額縁に入った絵を持っている。どうやらその角で韓国を殴ったようだった。日本はほぅ、と安心して息をつく。
「大丈夫か・・・?日本」
「は、はい。ありがとうございます」
「韓国なんかに触らせるなんてもったいなーい!俺に揉ませて〜あいつより上手だよ?」
好機とばかりに飛びついてくるフランスをイギリスが制して、日本は二人を部屋に招きいれた。
メンバー外に韓国がいるが、この部屋に大国アメリカがいるとわかった今、おとなしく隅で漫画を読んでいる。
アメリカにゲームを中断させて、DVDを差しこむ。再生ボタンを押した。
「2週間前になりましたが、見ていただきたいものがありまして」
「・・・?あ、わかったある!God knowsの元映像あるな?」
「はい」
一応皆には映像物と言ってあった。多分一般的に変換されるところとすれば、映画かドラマであろう。アニメとは言い出せなかったし、誰も想像してないに違いない。だけれどあの独特の雰囲気、空気をつかんでいて欲しかった。KYアメリカには無理でも、特にボーカルのイギリスには。
パッとバニー姿のハルヒ、魔女姿の長門が、その他軽音部とステージに立っている姿がテレビに映し出される。
「アニメかよ!」
「・・・まじあるか」
「バニーガールじゃないかー。なんだいこれ、AVアニメ?」
アメリカは無視することにする。ライブの始まる直前から終わるときまでの映像を編集しているので、すぐに曲が始まった。
同時にアニメ作品だったことに対する言葉も止んだ。
ほぼ全てのカメラ周りとタイミングを記憶している日本にとって、目の前の映像は記憶にあるとおりの物だったが、何度見てもはじめて見た感動は舞い戻る。京ア二のクオリティには毎回感服せざるを得ない。繰り返しではないしっかりしたハルヒの口パク、効果的なカメラワーク、驚くほど滑らかに動く長門の指、リアリティのある雰囲気、日本の背中に熱いものが走る。
「この、リードは軽音部か?・・・すごいな」
アニメなどの日本文化に興味を示してくれているフランスが、腕を組んだまま日本に問うた。
「あ、いえ彼女は音楽をやるのがこのときが初めてです」
「・・・っまあ、アニメ、だしな!」
彼女は万能宇宙人様ですから。見ただけでなんでも出来ますよ。
フランスのやる気に繋がればいいと思って、その真実は飲み込んだ。
皆、日本の想像以上の反応をしてくれた。ハルヒというアニメの空気に皆飲み込まれている・・・もちろんアメリカ以外ではあったが。
文句を言い立てても、今から曲を変えるのでは間に合わない。それを考えてか考えずか、大きな苦情は出なかった。
どうやら上映会は上手くいったようだ。



* * *



窓際で風に吹かれながら静かに本を読む彼を見て、綺麗だなとイギリスは思う。
彼は日本といい、アジアクラスの国であり、イギリスと同じく島国であり、恐らくはイギリスのたった一人の友人だ。
もちろんフランスやアメリカなどと交流はあるが、それはあくまで生徒会や国益を優先した付き合いであり、互いに互いへ友情という感情を持ち合わせない淡白な関係だとイギリスは認識している。
だが日本との関係はそれに当てはまらない。日本との友好関係に、日本は何かを求めることはないし、それはイギリスとて同じことだ。
ここ図書室で日本と一緒に、世間話をしたり読書にいそしむ。それだけで良かったし、それはいつしかイギリスにとって最高の楽しみであり安らげる時間となっていた。
ところが最近はまったくその時間が取れなくなってしまった。学園祭の2ヶ月前ということで生徒会の方に仕事が溜まっているのだ。生徒会長であるイギリスは、生徒会員にいくら仕事を押しつけても時間が足りないほどの仕事がまわってくる。図書室に寄ることさえしばらくぶりだ。
ようやく来れた今日でも、もう戻らなければいけない時間になってしまった。それでもあと少しだけ、そう思ってイギリスは居座り続けてしまっている。
「・・・お時間、大丈夫なんですか?」
本を読みながらも、チラチラと時計を見ていたのが日本に気づかれてしまったようだ。黒い二つの目が心配そうにイギリスの手元を見ている。
「久しぶりだし、まだゆっくりしたくてな。・・・っべ、別にお前と少しでも一緒に居たいとかじゃないからな!ただ本の続きが気になって・・・!」
は、と気づくと日本の健康的なアジア肌の頬が、赤く色付いている。恥ずかしそうに眉を寄せて、今度はイギリスを見ていた。日本の反応でイギリスは自分の失言に気がついた。
「ええと・・・」
「・・・っすまん、忘れてくれ!」
何故こうも余計なことを口走ってしまうのか。
日本に申し訳ないとは思うが、今のイギリスに本を片付ける余裕はなく、本を置き去りにして図書室を抜け出した。


イギリスが忙しくなった理由のもう一つに、バンド結成がある。
アメリカの我が儘からはじまったことだったが、日本からの大絶賛を受けて学園祭でやることになった。
それは考えていたより、随分イギリスにとって喜ばしいことだった。人前に出るのも目立つのも嫌いではないし、練習に時間を取られるがその時間の多くは日本にギターを教えてもらえる。むしろ、いつもより日本といる時間は増えていた。
「今のところ、楽譜見間違えていませんか?音が違う気がします」
「・・・ああ、確かに。二つ下だな」
日本の指導法はいたってシンプルだった。イギリスが黙々と弾き、間違えると指摘して、教えを請えば懇切丁寧にコツを教えてくれる。それ以外は口を挟まず、ただイギリスの手元を見つめている。
中々曲が出来ないのは単純に自分の実力不足だとイギリスは思った。
「日本、ここんとこ頼む」
「ここは人差し指、中指、小指を順に使うのがベストです。・・・少しゆっくりなテンポから弾いてみましょうか」
挑発的な態度をとった日本に、啖呵切った以上、I can't.とは言えるわけがないし、言うつもりもない。
イギリスに出来るのはひたすら練習することだけだった。


努力はしたつもりだった。
自分なりといってはなんだが、生徒会の仕事で忙しい時は、そこで寝泊りして夜も朝も周りを気にすることなく練習したりもした。稚拙であることは理解していたが、他の音とあわせたことがなかったから、合わせればなんとかなるだろうという気持ちが多かったことも確かだ。
でも、まさかあそこまでだとは思わなかった。
いつもは大人しい鈍い光を放つ目が、きらきらしてて。いつもは自己主張が薄く人に合わせるのに、この時だけは主張し。曲が決まってからは日本人特有の凝り性が発動したのか、積極的に計画や段取りを決めて。初の音合わせである今日、生徒会室で見た日本は表情には表さないが明らかに喜んでいた。周囲に花が飛んでいてもいいくらい嬉しそうだった。
バンドに半ば無理矢理だったが誘ってよかったとイギリスは思った。
それほど日本は楽しそうにしていたのに。
(俺が、壊した)
「まだ、時間はありますよ。がんばりましょう?」
「・・・・・悪い・・・」
日本がやんわりと励ましの言葉を述べるが、雰囲気は改善しない。隣の中国も気まずそうにうつむいている。
今は普通の表情に戻ってはいたが、普段感情を顔に出さない日本だからこそ、直後の唖然とした表情が如実に彼の心情を物語っていた。どうしようもない。ギターとドラムの完全な実力不足だ、とくにイギリスの。
(自分が言った言葉一つも守れやしない、そんなものが生徒会長とはこの学園もかわいそうに)



『選抜おーでぃしょん、やりますから、明日』
イギリスは、日本のその言葉に皆の得意分野をメモしてもらっていた。

アメリカ :ギター以外なら出来るぞ!ダンスもね!
フランス:お兄さんに任せなさい。ああ、ダンスはやめとくよ。
中国:ギターなら少しやったことあるよろし。ダンスはOKある。

一番初めにアメリカに書かせたのが間違いだった。ドラムとギターの是非をとイギリスは言ったのにあいまいに書くしその上余計なことまで付け足してくれたせいで、つられてフランスと中国も似たように書いてしまっている。
仕方ないので胆略的にまとめたものを日本に渡しておいた。
それにしても選抜オーディションとは、こうしたところの日本の考えはいつもイギリスの上をいく。イギリスにとってのオーディションとは、大勢の中から特別をえり抜くことであり、すでに決定しているメンバーの実力をはかるようなものではなかった。
内容としては、その場で日本から楽譜を渡され小一時間の練習のあと、楽譜どおりに弾く。アレンジして弾く。自由曲を弾く。というものだ。ドラムも同じ。
ギターを触ったことがないからパスなんて言うアメリカに、無理矢理弾かせて、イギリスはずっと触っていなかったドラムに触る。過去の記憶と自分の力を思い出しながら、楽譜を見て弾けそうなところと弾けないところにわける。さすがに弾けそうにないところが多々あった。
そもそもイギリスにとって音楽とは聞くものであり、自分自身が演奏するものではなかった。音楽は好きだし、立派な文化の一つだとは思う。だけれどイギリスにとっては聞いて歌詞に、メロディに、技術に酔いしれて楽しむためだけに存在するものだった。
教養として、自国の文化を理解するための手段として、両方とも習いはしたが到底理解できなかった。自分の弾けない箇所をいとも簡単に鳴らすフランスを見ても、凄いなとは思えどもそれは技術に対してであり、イギリスの憧れ焦がれるような対象としてはなりえなかった。金を稼げるわけじゃないのなら極める意味はないと感じていた。
歌も同様だ。
各人の歌声の特性を検証して理解し、声帯からひねり出す声色とそれにのる感情を感じとって感傷に浸ることはできる。技術を褒め称えるし、のった感情を大事にしたいとも思うが、その力を自分自身が手にしたいと思うことはなかった。
もちろん皆が歌っている間もそうだった。どうしてそんなに楽しそうに歌うかがイギリスには理解できない。
やはり自分はおかしいのだろうか、とイギリスがいつものドツボに入ったとき急に中国からマイクを渡される。先ほどからずっと聞き続けているGod knowsが再び流れる、歌がはじまる。が、イギリスは歌いだすことはない。
イギリスは極度の音痴なのだ。皆上手い中で歌うのは、その辺に頓着の無いイギリスも、さすがに躊躇した。
「イギリスさん?」
「や、俺すげー音痴だから」
だから歌いたくはない、そういう意味をこめると、中国が賛同してくれた。
「そういえば、英国はカラオケでも歌わねーあるな」
「・・・・つーわけで歌わないでいいよな!」
人を不快にさせるほどの音痴は、オーディションなど受けなくても是非はわかる。だが先ほどイギリスは、ギターのできないアメリカに無理矢理演奏させたばかりだった。
日本は笑みを浮かべ、その笑顔はイギリスに鳥肌を作らせる。
「問答無用です!歌ってください」
「恥をかくといいよイギリス!」
アメリカがケラケラと笑い親指を突き出して、にかっとウィンクした。
育ててやった恩義も忘れやがって、と傍から見れば少々理不尽な怒りがイギリスを満たす。アメリカを拾う少し前に自分が音痴だと気づいたので、アメリカの前では一度も歌ったことはないつもりだ。なのに、どうしてそこまで馬鹿にされなければいけないのか。
日本は無言でGod Knowsを流しはじめる。勢いのある曲調が空間を支配した。皆の視線がイギリスに集まる。
一度歌うと決めたものの、長い間人に聞かせることを拒み続けていたせいか、声は大きく出なかった。
「もっと、大きくお願いします」
日本にそう言われ、歌う覚悟もとれたイギリスは胸を張り、すぅ、と大きく息を吸い、吸った空気を声にのせて大きく歌った。
曲が終わったのに、予想していた笑い声も聞こえてこない。
アメリカが寄ってきて、とうの昔にイギリスを超えた力で背中を豪快に叩く。
「なんだい、君、音痴じゃないじゃないか!」
「ほんと、お上手です!」
その言葉に唖然とした。嘘だ、だってあいつらはもの凄い下手糞だって・・・。
和気あいあいと絡んでくるアメリカにどう反応していいか戸惑っていると、今度は日本がとんでもないことを言い出した。
「ボーカルは、イギリスさん、あなたです」
「・・・・・・はぁぁ!?」
驚きのあまり、うっかりマイクをONにしたまま大声を上げてしまった。
キィン、と不快な音が耳を裂くように飛び込んでくる。皆が顔をしかめて耳を塞いでいたので、一言詫びてからマイクを切る。
聞きようによっては、音痴とまではいかないのかもしれない、とイギリスは思い直す。それを前提にしたとしてもアメリカやフランス、中国に自分の歌が勝っているとは到底思えなかった。
イギリスが日本に尋ねる前に、アメリカが騒ぎ出した。
「えーっ!じゃあ俺はどうなるんだい!?」
バンド結束した最大で唯一の目的が”目立つこと”である彼にとって、アメリカがボーカルでなくなることは大きな痛手なんだろう。それに、代わりがまさかのイギリスであるのだ、相当不満があるに違いない。
だが、日本はアメリカをドラムにすると言い出した。
良く回る口でぺらぺらとドラムの良さを伝え、アメリカを説得しはじめる。いくら他人を褒める言葉が発達している日本でも、もちろん限りというものがありだんだんと余裕のない言い訳になってきていた。日本は慌てふためき、仕舞いには、
「アメリカさんの素晴らしいドラム技術を、世界に役立てましょう!」
なんて口走っていた。冷静に考えれば、焦った日本の大げさすぎた言葉だが、単純でお子ちゃまなアメリカはキラキラと目を輝かせて了承した。日本が可哀想な目でアメリカをみていた。
イギリスをボーカルに、アメリカをドラムに、中国にギターに配置換えして、必要な楽譜を渡して日本は解散した。フランスは普通に、中国は不安そうに、アメリカは陽気に部屋を出る。日本は自分の仕事に満足したようにうすら笑顔だ。
待ってくれ。最大な問題が残っているではないか。
さんざん自分を音痴だと信じて、ここまで生きてきたイギリスだ、今さら上手いだのなんだの言われても、その考えが覆ることはない。
人前に出るのも、多少なりと利益があるから好きなのだ。あきらかに恥をかきそうなことで人前に出るなんて誰が好きなものか。
ふいに日本が顔を上げ、さも今、イギリスに気づいたような顔をする。綺麗に整った眉をハの字にした。
「お願い・・・できませんか?生徒会のバンドですし、やはり会長がボーカルをやるべきかと思うのですが・・・」
「・・・っべ、別にしてやらんこともないぞ!」
正直に言うとイギリスは断りたかった。
しかし脳内に輝かしく浮かんだ案につられてOKをだす。それほどまでに魅力的なことを思いつけた、思い出せた自分を褒め称えたい。
日本がGod knowsのギターを弾けるのはわかっている。そして新ポジションの弱点はボーカルとギターだというのも明白。さすれば、この条件を日本が断るはずがない、否、断れるはずがないのだ。
不安なギターを補助できるならメンバーは反対しないし、中国も自分のパートが楽になる。これ以上の名案はないように思われた。

日本も、ステージにギターとして出場しろ。

「で、では。貴方はもとの女性歌詞で歌っていただきたい!・・・です」
恥の上塗りはたいした恥じゃない。
そんなイギリスの小さな意固地のおかげで、生徒会バンドメンバーは有力なギターを仲間にしたわけである。





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イギー視点。はい、繰り返しです申し訳ない。
イギイギの何かそういった気持ちを描写したかったんですが、見事に大ハズレ。
いや、あの、音楽的に有名な方がイギイギから出てるのも知っているんですが、ちょっと冷たい感じを出したくてイギーの音楽的感情をあんな感じにしてみました。でもただの思い込みイギーにしか見えない件。
私はツンデレイギイギに気づかなくて嫌われてると思い込む日本も好きですが、ツンデレイギイギに気づいて逆に照れる日本も好きです。つまりどんな日本も大好きです。
08.11.2