バンドやろうぜ☆ -2-
「これ、なんの曲あるか?」
「・・・映像物の挿入歌です」
嘘は言ってない、嘘は。日本人独特の曖昧な表現をなめてもらっちゃ困る。
曲が半分にも達していないのに、アメリカが不満を出した。
「これ女の曲じゃないか!君、私に歌えっていうのかしら?」
「安心してください、男VERもありますから」
公式じゃないし、歌詞を変えるなんて邪道だけど仕方ない。有志が歌った無難な歌詞のものでも持ってこよう。男声用に少しキーを下げてあるから十分いけるはずだ。
曲が終わりリピートにはいる。
「この曲、主人公たちが軽音部に混ざって文化祭で演奏するんです。まさに私たちじゃないですか」
「なかなか美しい曲だ、にしても可愛い声してんなー」
「我愛称♥」
「でも、伴奏のとこギター難しそうだよな」
「そこがいいあるよ!かっこいいある」
予想通りの反応──その答えは用意してある。それに中国さんは確実にこちら側、勝機は見えた・・・!
「リードギター、私は弾けるので指南いたします・・・まさか、指導者がいても弾けないなんてこと、英国紳士にあるわけないですよね?」
目を合わせずに口元だけで笑みを作った。
自分が卑怯だと言うことくらいわかっている、が日本はあらゆる手を使ってでも、この曲をやりたかった。それに一度言いだしたことは引けない。
ギターに口を出した以上、イギリスがギター担当なのは確実だった。意志の強い、挑むような視線が向けられているのが、そちらに目をやらなくてもわかる。
「・・・おまえがやれるものを俺が出来ないわけがない。特に反対意見がないならこの曲でいくぞ」
反対者はでず、生徒会によるバンドの主曲はGod knows...に決定した。
男性VERを聞かせると、アメリカの了解もとれ、日本は楽器・パート別に楽譜を配った。もちろん自分の分もだ、イギリスに教えるという役目もできたから。
2ヶ月前の一週間は生徒会が忙しいとのことで、2週間後までは個別練習だ。聞けばリードギターはやはりイギリス、ベースはフランス、ドラムは中国が担当し、アメリカは言わずもがなでボーカルだという。アニメではボーカルはギターもやっているが、アメリカは弾けないとのことだった。
God knowsで一番難しいとされる、主旋律を奏でるギターの練習に日本はつくことになった。
だけれど何年もギターやっている人でも数ヶ月かかることがある難しい曲、2ヶ月間でどれだけ完成に近づけられるか重要だ。
「なぁ日本、ほんとにお前はステージに出ないのか?」
「私はステージに立つとか、そんなカリスマ性は微塵もありませんから」
「そんなもん関係ない、要は上手いか下手かだ。お前綺麗に弾けてたじゃねぇか」
「出たくないものは出たくないんです。ひきこもりますよ・・・」
日本と話しながらも、イギリスは楽譜と手の中にあるギターとにらめっこしていた。
そのギターはあまり詳しくない日本が見ても趣味の域を越えた、精巧な作りの物だ。
「・・・イギリスさんはお上手なんでしょう?」
極めようとする者でなければそんなに高価なものは買わない、そんな意味を込めてギターを見つめる。
イギリスは罰が悪そうに言った。
「これ、誕生日にフランスから貰ったからさ」
なるほど、道理で無駄と思える装飾が多いわけだ。
ギターにはそぐわない実力であれ基本はしっかりしているので、難解な数箇所以外は日本は口を出す必要がなく、音を曲に育ててゆくイギリスの手元をぼんやりと眺めていた。
問題の部分は飛ばしたようで、他は所々つまりはするがスムーズだ。所詮アニソンというべきか。いやでも、あれは相当難しいからやはりイギリスを褒めるべきか。
「日本はギター以外に楽器はやるのか?」
練習をしながらイギリスが問う。
ああ、しまった。沈黙の空気は辛い、じっと見つめてしまってはやりにくいだろう、気を遣わせてしまった。
自分の助けを必要とするまでは、しばらく席を外そうと日本は思った。
「お恥ずかしい話、God Knowsに感銘を受けてギターをはじめたので、本当に楽器は日本のもの以外はほとんど出来ないんですよ。ギターも固定曲しか弾けないですし」
「はぁ!?お前初挑戦がこれなのか?」
「凝り性ってものを舐めないでくださいな。ドラムも少しかじったんですけどね・・・リズム感に難ありでした」
くすくすとお互いに笑う。空気は和んだし、することもないからしばらく眺めていたかったが、邪魔になることを恐れて日本は部屋を出た。
そういえばと、ドラム初挑戦という不安な中国を訪ねてみる。
寮の部屋にいた。確かに日本と中国の部屋は建物の隅にあるので、たった一つの隣室に断りを入れればそんなに迷惑になることもない。
日本が部屋に入ったとたん、バチを持ったまま中国が抱きついてきた。
「うわぁぁぁぁん日本ー!わけがわからないあるー!」
「ちゅ、中国さん?落ち着いてください!」
ぐすぐすと鼻を鳴らして、涙目になりながら訴える。
アジア故の小柄さを有している中国に抱きつかれるのは楽だった。W学園に来てからとくにそう思う、大きな人の相手は疲れるのだ。特に首が。
「うー、いちから教えるあるよ」
中国はバチを逆さまに、拳法的な構えを取る。楽器だというのに戦う気でもあるのだろうか。
中国楽器に打楽器は少なからずあるが、さすがにドラムに触ったことはないらしい。ギターなら多少は、と中国は言うがドラムは欲しかった。
とりあえず基本から、と薄い記憶を総動員してできる限り丁寧に中国に伝える。
各部の名称なんて本格的に習うわけじゃないから知らなくてもいいだろう、現に日本も記憶がおぼろげだ。体の置き位置、叩き方、楽譜の読み方など実践的なものから教えた。
曲にギターに比べてそこまで上級者向けのテクニックが隠されているわけじゃないし、多分間に合うだろうとは思う、たとえ初心者だとしても。
だんだん学園全体が学園祭ムードになりつつある。
亜細亜クラスも、例外になく浮き足立っていた。クラスはもちろん部活、サークル、はたまた個人、グループでさまざまに活躍する場が与えられる学園祭。国民らが通う高校の文化祭と似たようなものだろうが、目的が違った。
文化祭は楽しむためにやるが、W学園祭は、まさしく国同士の争いだった。平和的な戦争といっても過言ではないかもしれない。もともと仲の悪い国同士は学園祭でも張り合っている。活気付いていいといえばいいが、なんとも物騒な気配のする学園祭のようだった。引きこもり歴が長い日本は今年が初めてでよくわからないが。
「日本ー!ため息ばかりついてちゃ盛り上がらないんだぜ!」
常なるハイテンションさがどこぞのヒーローを思い出させる韓国が、特有のアホ毛を揺らしながら絡んできた。
クラス内では日本、中国、韓国でよく集まっている(勝手に集まるとも言う)のだが、中国は生徒会のほうに出向いているので今は実質二人になっていた。
今年、亜細亜クラスは民族衣装の展示とレンタルをやることになった。有名なところでいくとチャイナドレスやチマ・チョゴリ、和服、サリーにアオザイである。それらを教室内にかざり、それらを着た国がそれらについて語る。そして客は現代風に少しアレンジしてある民族服を簡単レンタルできるわけだ。名前のままだが。
つまり亜細亜クラスにいる各国に課せられることは当日までに衣装を持ち寄るということだけであり、配置などは委員長たちが決めるから、結果的に授業時間にとられた準備の時間は暇だった。
日本はまったくもって暇じゃなかったが。
「すいませんが、しばらく静かにしていただけますか。今考え事してるので」
韓国のアホ毛が犬の尻尾みたいにしょんぼりと垂れ下がる。申し訳ないと思いながらも、今の日本に韓国の相手をしている余裕はなかった。
生徒会役員と日本でバンドを組み、God Knowsを歌うことになったのはいいが、大変な問題がたちのぼったのだ。
それは先週、個人練習の末初めて皆であわせてみたときの話である。
