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「なんなんですか、花壁さん」
「草壁だ! おまえわざとだろ!? と、そんなことはどうでもいい。頼む、明日委員長のところへ行ってくれ」
バタンッ
勢いよくドアをしめた音。
ツナの応接室に入った音だ。
中で座っていたヒバリはツナの姿をとらえて、わずかに目を見開いた。
ツナが彼の呼びつけも無しに応接室へ来たことも、今日は祭日で休校だというのに何の部活にも属していないツナが学校に来ていることにも、驚いたのだろう。
手に持っていた書類を机に無造作に置いた。
ツナは紙袋をかかえていた。
「綱吉・・・どうしたの、急用?今日休みだろ?」
「何であなたは肝心なこと言わないんですか!余計なことばかり言うくせに」
ツナはヒバリの向かい側のソファに腰掛けて、その紙袋をテーブルに置く。
紙袋は普通の長方形ではなく、確かに高さは横よりも長かったが、幅も長かった。つまり、底が正方形といった形だ。
「何の話?」
「本当に気づいていないんですか?」
「肝心なこと・・・ああそういえば。今日おなか出して寝てたね君」
ヒバリはおもむろに携帯を取り出すと、ほら、と画面をツナに突き出してきた。
そこにはツナが写っていた。
寝ていて、布団をけちらしていて、そう、パジャマからおなかを出しているツナが。
ツナは瞬時にヒバリの手から黒の携帯を奪い取った。
ツナの頬がほてる。
「・・・・どうやってこんな写真を」
「奈々から」
「は?母さんから?」
「アドレス交換してあるからね」
「いつの間に!?」
「このあいだ君の家に行ったじゃないか。その時だよ」
あれか・・・・・。
先日、不可抗力といっても過言ではない状況のせいで、ヒバリはツナの家に訪れていた。
ツナは熱を出していて、昼近くに起きたのだが、そのとき確かにヒバリとツナの母である奈々は親しくなっていた。
だけれど、メールアドレスまで交換していようとは。
母よ。息子の恥ずかしい写真取るな。頼むから本人に許可なく他人に渡すな。
「消しますからね!」
ちなみにツナは携帯を持っていない。
沢田家の教育方針により”携帯は高校生から持つもの”だそうだ。今の御世代でいつまでそれが通るか疑問だ。
一件消去、消去しますか? という画面で、決定ボタンを押すものの「暗証番号を入力してください」との文字が出た。
「ロックかけてるよ? 綱吉のは全部」
「消せないじゃないですか! なんでオレのに!? って全部ってことはまさか他にもあるんですか・・・?」
「毎日2・3個くれるから・・・20個くらいたまってると思うけど」
「・・・確かになんかいつにも増して携帯こっちに向けてくるなー、変だなーとか思ってたけど! しかも毎日か! 恭弥さんこれ全部消してください」
「やだ」
ツナの願いもむなしく、たった二つの文字のみでヒバリは拒絶した。
ダメダメを演じる以外、気を抜いている自宅での生活を、母ならまだしも他人に(ランボ・イーピンは子供だし、リボーンは諦めた)見られる恥ずかしさ。
だがツナは自分がここへ来た用件を思いかえし、おとなしく携帯を持ち主に返した。
「このことじゃないです。あなたに、今日、関係することで・・・恭弥さん? 手に何持ってるか聞いていいですか」
「こいのぼりだけど。今朝草壁が置いていったんだ」
ヒバリが机から出していたのは手のひらサイズのそれだった。
上から順に、吹き流し(数色にわかれているアレ)、黒鯉、赤鯉、小さな青鯉の4つが、プラスチックの頼りない棒に並んでいる。
それをヒバリが持っている。
あまりに似合わなくて、静かに腹筋を震わせながらそれを凝視していると、ヒバリはこいのぼりを差しだしてきた。
「欲しいならあげるけど」
「・・・ありがとうございます」
断るのも腹筋(笑いすぎで)に悪い気がしてツナは受け取った。
今日が誕生日ってこと覚えてるよな、いくらなんでも。草壁さん、ご本人にお聞きしたんだって言ってたし。
「ところでその紙袋何が入ってるの?」
ツナは少し眉を寄せながら、袋から箱を取り出した。
形は紙袋の底とおなじく正方形、ただし高さはほとんどない。
飾り気のない白い体に、センスのいい水色のリボンがちょこんとついている。
「・・・ひょっとして、誕生日プレゼント、とか言うやつ?」
「あー、良かった覚えてて。そうです、今日でしょう?」
「まさか綱吉から貰えるとはね」
「まさか恭弥さんにあげることになるとはね」
二人して顔を見合わせて、くすくすと笑った。
たいした意味もなく笑ったのは久しぶりだった。
それと、恭弥さんの笑顔も初めて見た。こんな風に笑えるんだな、この人。
「誕生日、おめでとうございます、恭弥さん」
「・・・まあいいから、中身見せなよ」
せっかくツナがもれなく笑顔つきでお祝いの言葉を言ったのに、ヒバリの目線は箱に向かっていた。
この人を常識にあてはめるのは無理だと思うが、今の場面はありがとうと返すところじゃないんだろうか?
ツナは箱をあけ、中身を横に引っ張りだした。
出てきたのは、小さめのホールの、チョコケーキ。
「誕生日といえばケーキって相場は決まってますから。あ、甘いのは苦手って聞いたんで、ちゃんとビター風味ですよ」
外側に生クリームがてんてんと乗っていて、ろうそくが立っているその真ん中には、白い小さなプレートがあった。
プレートには達筆な字でHappy Birthday! HIBARI と書かれている。
ヒバリはいつのまにかフォークでケーキを食べ始めていた。
切らずにそのままだ。まあ、もうあげたものだからヒバリがどう食べたっていいのだが。
「君は食べないの?」
「ビターチョコは苦手なんですよ」
ツナは苦笑した。
ヒバリはフォークを駆使して、予想以上に上品に食べた。
「ふうん・・・まあまあ、かな」
「恭弥さん、嘘でも美味しいっていう場面ですよ、ここは」
それだけ言うとツナは紙袋をもって立ち上がった。
「それじゃ、仕事の邪魔してすいませんでしたー」
軽く会釈をして、出て行こうとする。
だが、ドアノブへと手をかける前にヒバリに呼び止められた。
「・・・これどこで買ったの」
「気に入ったんですか?」
「食べられないことも無いね」
「む。悪かったですね、オレのお手製です。苦情は受け付けませんので、あとは捨てるなりお好きにどーぞ」
ツナは投げやりにそう言うと、応接室のドアを開け、廊下に出た。
が、そのドアが閉まりきる前に手をつかまれた。
ツナが入ってきてから一度も腰を上げなかったヒバリが、ケーキのささったフォーク片手にツナを再び部屋の中に入れる。
「なんですか、恭弥さ・・・・むぐ」
「美味しいでしょ?」
「・・・・・・・・・苦いです」
文句を言おうとしたツナの口を、ヒバリはケーキで塞いだのだ。
ほとんどがスポンジ部分で、あまりチョコはついていなかったが、それでも苦かった。
普段、甘いチョコかスナックのついたチョコしか食してなかったため、ヒバリの口に合うような苦いブラックチョコはツナにはきつかった。
ヒバリに諭されて、再びソファに座る。
「口、苦・・・・・・・」
ツナがぼそりとつぶやく。
ヒバリはケーキを半分ほど食べ終わっていた。
「甘いもの持ってこさせようか。何がいい?」
おかしい。絶対おかしい。
あの雲雀恭弥がこんな親切さを出すはずがない。
一口ツナの口に放り込んだとき、ほとんどチョコだったりするほうがヒバリらしい。
それが苦いとつぶやいただけで、口直しを持ってくる(正確には持ってこさせる)などありえない。
だけれど、口の中に残るカカオ特有の苦さにツナは耐え切れなかった。
仕方ない、これがお礼のお返事だとでも思っておこう。
「・・・・つぶつぶいちごオレ・ミルク入りがいいです」
ヒバリがふきだす瞬間を、ツナはこの世で唯一目撃してしまった。
因みに草壁がやけに嬉しそうな顔で自販機まで走っていたことを、ツナが知ることはない。
「なんなんですか、花壁さん」
「草壁だ! おまえわざとだろ!? と、そんなことはどうでもいい。頼む、明日委員長のところへ行ってくれ」
「いやですよ、なんでまた。しかも今日じゃないんですか? 明日休みでしょ」
「明日はあの方の誕生日なんだ」
「・・・! それであの人は、オレを呼びつけたわけですね」
「違う、委員長は関係していない。全て俺の独断だ」
「どーしてまたオレなんですか。風紀でお祝いでもすればいいのに」
「むろんやっている、こっそり。だが、今年は委員長に喜んで欲しいと思ってな、それでお前を」
雲雀さま、誕生日おめでとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。産んでくれてありがとう。天野先生。
草ヒバ風味ですみませぬ (ノω`)ヒバスレツナですよ。
07.05.05
いや、何故かバッチリシチュエーションな愛らしいアイコンがあったのでw
