ツナデレラ・中編 〜1万HIT記念小説〜
ツナデレラは舞踏会のひろまにいました。
『木の葉を隠すには森の中』というように、ひとのいるところのほうが見つかりにくい気がしたからです。
一心不乱にこうかな食事をとっていると、声をかけられました。
そこにいたのはみなみの国にある果物みたいなあたまのひとでした。
一般常識でいくとへんなかみと、へんな笑いかたをのぞけば、もてる部類のかおをしています。
「こんにちはツナさん」
「こんにちは。骸、どーしてこんなとこにいんの?」
「クフフ、僕これでも王子ですから。黒耀の」
「へぇ、知らなかった」
骸はツナデレラがよくいく森にたまにいて、話しているうちに仲良くなりました。
ふたりでしばらく話していると、背のたかいひとと、かみがきれいな銀色のひとがやってきました。
どうやら骸のしりあいみたいです。
「よう、骸。久しぶりだな、そっちの可愛い子誰だ? 彼女?」
「け、どうせお前のなんて不細工なんだろー・・」
ふたりに同時に顔をのぞきこまれて、ツナデレラは困りました。
なにごとだと思っていると、いっしゅんの間のあとに、銀のひとはかたひざをつけ、ツナデレラの左手に。
背のたかいひとはその背をまげてツナデレラの右手に、それぞれくちづけをおくりました。
ツナデレラはそれに照れるわけでもなく、信じられないものでもみたかのように、ふたりをみます。
「・・・な、なにしてんの?」
「そーですよっ、ツナさんに何するんですか!」
「正直、惚れた。ひとめぼれってやつ?」
「ツナさんとおっしゃるのですね! その容貌同様、可愛らしいお名前です!」
ツナデレラは大衆にいればとけこめますが、ひとたび目をあわせるとひきつけられて視線をそらせない、ふしぎな魅力がありました。
そんな魅力に、骸もこのふたりもひかれてしまったのでしょう。
背のたかいひとは日本国の山本王子、銀のひとはイタリア国の獄寺王子というそうです。
自己紹介がおわったあと、べつにまたひとり、黒のかみをしたひとがやってきました。
「何群れてるの、山本、果物」
「骸がな、可愛らしい子連れてたんだよ」
「僕は果物じゃないと何度言えばわかっていただけますかね?」
「ワォ・・・果物なんかにしないで僕にしときなよ、君」
「はぁ? ・・・・っ」
黒いひとは、ツナデレラのあごをつかんで、桜色のくちびるにくちづけをしました。
ツナデレラは盛大にまゆをゆがませました。
「・・・なに、こいつ。本人の許可なしにキスなんてしちゃってんの?」
「恥ずかしがらないでいいよ。名前はなんていうんだい?」
「一応ツナデレラだけど・・・」
「ツナ、光栄に思うんだね」
はぁ?とふたたびツナデレラが口にだすまえに、黒のひとはツナデレラをかるがると抱きあげました。いわゆる姫だっこです。
骸をふくめたほかの三人が、黒のひとを止めようとしますが、彼の「押さえつけて」という声とともに黒服のひとがたくさんやってきて、三人は押さえられてしまいました。
そのなかの、かみの毛が前方にはげしく飛びでているひとに、ツナデレラを抱いたまま黒のひとはいいました。
「草壁、決めた。この子を妃にむかえる。急遽結婚の準備をして」
「は。了解です、王子。ただいま」
「そうだね、王と后に伝えてそれから国民にふれをだして。今日やるから集まれってね」
「はい。各国の王たちも呼びつけますか?」
「任せるよ」
ものすごく重大なことが、本人をよそに決められていきます。
ですがツナデレラには結婚よりも、すごい事実が頭のなかで光りかがやいています。
「え・・・王子って、あのヒバリ王子? 並盛の秩序? あんた王子なの?」
「そうだけど。自分の国の王子も知らないわけ?」
「乱暴者って名高いからマッチョ想像してたのに。わぁ、顔もきれいなんだ!」
横抱きにされたままで、ツナデレラははしゃいでいます。
「それで、もちろん結婚するよね」
「あーうん、わかったわかった。オレ綺麗な人好きー」
やけにハイテンションでした。例をみないほどテンションが高いです
骸はいつのまにか黒服の拘束からのがれていました。
彼女とながいつきあいがあった骸ははふしぎにおもって、ツナデレラの口元のにおいをかいでみました。
すると、かぐわしいお酒のかおりがしました。
「ツナさん・・、お酒弱いなら飲むんじゃありませんよ」
「飲んでないよぉー。うっと、なんか、ケーキ食べただけだしぃ・・・・・」
「ブランデー入りのケーキですね・・、まったく。安易な約束までしてしまって・・・」
ツナデレラはとろんとした顔をしています。
いまごろ酔いがまわってきたのでしょう。
骸はツナデレラの上方にいるヒバリをうかがうようにみました。
「酔ってる間の約束は、約束にならないと思いませんか?」
「そんなことはないよ。君、頭沸いてきてるんじゃない?」
しばしのあいだ、沈黙がながれました。
またも骸がさきに口をひらきました。こんどはツナデレラ自身にです。
「・・・僕と結婚してくださいませんか?」
「やだ」
「何故ぇ!? ヒバリのときは即答でOKでしたよね!?」
「むぅ、じゃあいいよ」
「何故!? しかもじゃあですか・・・?」
「不満?」
「いえ、光栄ですけど。ツナさん的には重婚ありなんですか?」
「いーんじゃないー?」
それをきいた獄寺王子と山本王子も求婚して、酔いに酔っていたツナデレラはOKをしてしまいました。
★
ツナデレラはうつくしい純白のドレスに身をまとい、つつましくたっていました。
そのとなりには真っ黒なスーツすがたの、ヒバリ王子がいます。
そのほか、神父さまとヒバリ王子におびえつつある国民、国王、お后様がいらっしゃいます。ツナデレラは国王さまの金のかみにすこしびっくりしました。
と、そんなことは問題ではありません。
現在、日がかんぜんにくれて、結婚式のまっさいちゅうです。
ツナデレラはとうとつに酔いがさめて、じぶんの行動をくいました。
(何やってんだオレ・・・平穏生活はどうした。前もめんどうな事態になったから酒は飲まないって決めたはずなのに・・・。ああ今すぐ帰りたい・・・あの平凡な家に! ビアンキも持田も今連れ出してくれたら救世主のようにあがめたてる自信があるよ!)
ビアンキ継母さまと持田義姉さまは、信じられないことがおこったようにツナデレラを見ながら、民衆にまぎれていました。
神父さまがながい文章をよみおえ、さいごに「誓いのくちづけを」とおっしゃいました。
ツナデレラはさきほどしたばかりだけれど、このキスをすれば結婚が正式なものとしてみとめられてしまうと、どうにか逃げられる理由をさがしていました。
そのときです。
ツナデレラの都合がよいように、お城の鐘がなりはじめました。
しめた!と思ったツナデレラは、目のまえにせまっていたヒバリ王子の口をよけました。
「なんでよけるの、ツナ」
「申し訳ありません王子様! 私は12時までにこのお城を出なければならないのです。なぜならば・・・」
「なぜならば?」
「なぜならば、この鐘がなりおわると、私は小さな豚になってしまうのです・・・・さようならっ」
かんぺきな棒読みでそういうと、ツナデレラは全速力で階段をかけおりていきました。
まだ鐘はなりつづけています。
もちろん豚になるうんぬんは、ツナデレラのうそです。
ですが12時からはお城をでてもいいと、正体不明のまほうつかいからつげられていました。
彼女はこう言うことで、王子は自分をさがさないか、ひっしこいて豚をさがすくらいだろうと考えたからでした。
ツナデレラは、継母さまと義姉さまのまえでは、運動だめ、頭だめ、すべてだめの三拍子をえんじていました。
ですがじっさいは平均よりはるか上をいっています。そんなツナデレラに追いつけるものはいませんでした。
下のほうにたくさんいた、衛兵たちもどんどんなぎたおしていきます。
追ってきた4にんの王子のなかで、骸王子が、なにやらたかくジャンプしてツナデレラのほうへと落ちてきました。
「ツーナーさーんー!」
ツナデレラははいていたガラスのくつを脱いで、「ごめんっ」といいつつ、ちからいっぱい骸の顔面になげつけました。
くつはガッとにぶい音をたてて、骸の顔面にめりこみました。
ツナデレラはもうかたほうも投げすて、城外にでました。
すると、スポットライトがツナデレラを照らします。
「ツナ!」
「コロネロ? おまえこんなとこに居たの? ・・・わぁ魔法使いさんまでいるー・・・」
そこにいたのは懐かしい、ですが先ほどあったばかりの金いろのコロネロでした。
さきほどのスーツ姿とはちがい、トレードマークとも言えるいつもの深いみどりの軍服をきています。
そしてそのよこにはやみ色の魔法使い、リボーンもいました。
「何の様なわけ? 魔法使いなんてわけわかんないものまで雇ってさ」
「おまえはある国の姫君なんだぞ。連れ帰るのが俺の国王から依頼された仕事だ」
「ふーん」
「驚かねぇのか?」
「知ってたし・・・」
ツナデレラは物心のつかないころからビアンキ継母さまと義姉さまのところにいました。
父さまはしんだときかされ、自分のじつの母と姉ではないときかされました。
それだけなら気がつかなかったでしょう、ですがひとつだけ不可解なことがあったのです。
それがコロネロでした。
ツナデレラと継母さま義姉さまが、並盛国へひっこすまえにボンゴレ国に住んでいたとき、コロネロはよく彼女のいえにきていたのです。
継母さまの知りあいの息子とおしえられましたが、それにしてはきれいで美しいな金いろ。
金のいろのかみは、すごく珍しいものだったのです。そしてその金いろは、この地域の王族におおくいました。
おさないツナデレラはそこからひとつの事実にたどりつきました。
コロネロは王族。王子さま。
ならばどうしてコロネロはツナデレラの家にくるのか。
不思議に思いしらべると、コロネロはとなりの国の王子さまで、じぶんもボンゴレ国の姫君だということでした。
おもえばあのころの家はとてもゆうふくでした。
しりょうによると、ボンゴレでは次期王さま、女王さまこうほは『国民のせいかつ』をしるために、おさないころは王族としらずに国民とおなじようにくらすことが義務づけられているそうです。
継母さまと義姉さまはそのことで、ツナデレラの世話をもうしつけられたものだったのでしょう。
なんらかの事情で、国にはないしょでこの並盛国までツナデレラをつれてやってきたのだと、ツナデレラは結論づけていました。
「ならどうして戻ってこなかったんだコラ! ・・っどうして俺から逃げるんだ・・・・・!」
コロネロはツナデレラのてをとり、悲痛にさけびました。
ツナデレラはその顔をみて、ひどくかなしいきもちになりました。
「・・・ごめん。でも・・・ただ笑ってるだけの姫なんて、いやだ」
ツナデレラは静かにはなしはじめました。
「王制は一応女も王位につかせるけど、実際政治をうごかすのは女王の婿だ。
女王はただ見世物のように笑顔でいるだけでいい。そんなの、オレはいやだ。
・・・もう王制はだめだ。昔ならいざしらず、今の時代には対応しきれない。
ボンゴレは特殊な遺伝能力の加護で今も栄えてるし、コロネロのところもそうだけど、もう世襲制じゃあ駄目だ。
そもそも女は政(まつりごと)に関与できないなんてばかばかし・・・」
「お前、馬鹿だろコラ」
ツナデレラの話すことばをさえぎって、コロネロが悪態をつけました。
「はぁ!? なに、オレ今シリアス全開で話してるんですけど? そんなシリアスさえぎらないでくれる?」
「俺はべつに女だの男だの、仕事ができれば関係ねぇ。どんどん口だしていいぞコラ?」
コロネロのいうことばを、ツナデレラはうまく理解できませんでした。
コロネロのうしろにいるリボーンは、ふぁぁと興味なさげにあくびをしています。
「?? 何言ってるのコロネロ・・・」
「だからお前俺の嫁にくるだろーが、俺は女が政しようとどうだって・・・」
「はぁ? なんで?」
「べつにダメツナが嫁と決まったわけじゃねぇぞ。テメーが婿入りすりゃいいじゃねーかコロネロ」
「まあそれでもいいけどよ」
「いや次期王さまと次期女王が結婚したらいろいろ面倒なことに・・・じゃなくって。なんでオレとコロネロが結婚する感じになってんの?」
ツナデレラのことばに、黒と金はいっしゅんかたまりました。
慌てたようにリボーンがひじでコロネロをつっついて、すこしちいさな声でかくにんします。
「おい、テメーの妄想・・・・ってオチじゃあるまいな?」
「ばっ! んなわけないだろ! ちゃんと家光から了承貰ってるぜコラ。ほれ、証拠」
コロネロはわたわたと軍服からいちまいの紙をとりだしました。
そこには家光のものらしき朱印と、サインがしてありました。
『うちのツナちゃんと、コロネロくんの結婚をみとめまーす★ 家光』 と。
ちなみに家光とはツナデレラのじつの父であり、ボンゴレ国の門外顧問というたちばのものです。
「これだけじゃなくて一応俺ら誓い合ったからなコラ! 俺の妄想でもねーし、政略結婚でもねぇ」
「え、ええ・・・・・・えええ?」
ツナデレラはことばになっていない、うめきをあげました。
そして、すこし顔をあおくしてつぶやきます。
「ご、ごめんコロネロ・・・・・オレ覚えてないかも・・・・・・」
「はぁあ!?」

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楽しいのは自分だけな気がしますが、突っ走ります。
07.6.14
photo by 君に、