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最近のツナは寝不足だ。
理由は、自称暗殺者のランボの夜泣きが酷いから。
実際5歳で夜泣きまくるのはどうかと思うし、なにより5歳で暗殺者というのも変だがそこは気にしていられない。
とにかくうるさくて眠れない。寝付いてくれない。
そういえばリボーンは泣かないな。アルコバレーノは何歳から泣かなくなるのだろうか。
産まれたときから?
いや、産まれたときは泣くことで呼吸してるし、いくらあいつでも誕生の瞬間くらい泣くよな。想像つかないけど。
というかランボ、リボーン殺すの手伝うから早く殺ってくれ・・・だからさっさと出てけ・・・むしろ恭弥さんにやられろ・・・それかどこ○もドアで北極行け・・・んでもって凍ってマンモスになれ・・・。
寝不足でツナの思考はどこか変な方向に行きかけていた。
「よおツナ」
「山本!おはよ!」
「なんだ寝不足か?クマできてんぞ」
「まぁ・・ちょっとね」
辛うじてのところで、話しかけてきた友人山本の声によって意識が引き戻される。
山本とはこのあいだ自殺しているところを止めてからというもの、よく話すようになった。とはいっても獄寺が邪魔をするのでまともに話ができたことは数少なかったが。
今ツナと山本がいるところの、4時の方向に獄寺とリボーンがいる。
リボーンの出現場所に学校が追加されて随分たつが、ツナの本性を語るようなことは一切していないようだった。
その目的が何にあるかツナにはわからない。
放課後、帰ろうとしていたらリボーンにプールへと強制連行された。
しかも人を待たせて何をしているのかと思えばちゃっかり水着に着替えて、浮き輪も常備でプールに浸かっている。
「っつーわけでお前も聞いてた通り獄寺を納得させるためにも、山本の『入ファミリー試験』をすることにしたんだ」
「なーにが入ファミリー試験だよ、獄寺なんてほっときゃいいのに。つか獄寺はともかく山本はマフィアなんかに関係ない、一クラスメートだ、巻き込むな」
「無理だな。もう獄寺に山本呼びに行かせたぞ」
「なんだって・・・・・お前なぁ!」
ツナがリボーンに訴えるも、すでに奴は潜っていて水の中だから聞こえるはずが無かった。
酷く腹が立ったからそのまま押さえつけてやったら、リボーンは水中からこちらに撃ってきた。とっさに避けたが、超至近距離からの発砲だったので腕に軽くかすってしまった。
自ら上がってきたリボーンが二・三度咳き込んでから、ツナに軽い殺気を放つ。
「何しやがるダメツナ」
「うるさいな、学校内で発砲するなつってもお前はすんだろうな・・ってこんなことしてる場合じゃない。山本助けに行かなきゃ」
獄寺の短気な性格は言っても治ることはなく、ツナと関わるとさらに些細なことでキレているようだった。
最近その矛先はほぼ山本に向いていたので、二人きりにすることを避けるようにしていたのだけど・・。
獄寺と山本の二人は校庭の一角に居た。
「お前牛乳飲むといいぜ、イライラはカルシウム不足だ」
「・・・」
陽気に話す山本と、フルフルと恐らく怒りに体を震わせている獄寺とがツナの目に入った。
ブチッという音を空耳だと思いたいけれど、獄寺の持つダイナマイトが見えて空耳じゃないことを知る。
投げられてはかなわないと、ツナはまだ遠くから二人に声をかけた。
「おーい!!」
「10代目!」
「よぉ」
獄寺はツナに気がつくとさっと、ダイナマイトを隠した。
この頃学校でダイナマイトを出すことに、度々ツナが注意してきたからの反応だろう。決して山本を爆破するのを悪いことだと思っているわけでなく。
山本がツナの後ろについているリボーンを見て吃驚した。
「!? なにそいつ、ツナの弟?」
「ちゃおっス。弟じゃねーぞ、オレはマフィアボンゴレファミリーの殺し屋リボーンだ」
「ハハハハハ、そっかそりゃ失礼した。こんなちっせーうちから殺し屋たぁ大変だな」
一般人に堂々と自己紹介をするマフィアの殺し屋も凄いと思うが、それを笑い飛ばせる山本もすごい気がした。
まぁこんな赤ん坊が言うのだから、そう捉えてもおかしいことでもないかな?
山本がマフィアゴッコだと勘違いしていることが、少しツナはうらやましかった。
オレも思えるものならゴッコだと思っていたい、一生。
「ファミリーの10代目ボスはツナなんだ」
「っほー、そりゃまたグッドな人選だな」
そういいながら山本は肩にリボーンを担ぎ上げた。
ツナがうっかり触れてしまうと振り払うリボーンなのに、山本の前では借りてきたネコのようにじっとしている。
そうしているのは山本をファミリーに入れたいからだとわかるが、それならツナにもいきなり殴りかかってこないでほしい。
ボスにならないぞ。いや、振り払われなくてもならないけど。
山本が勘違いしたまま、リボーンの言う『入ファミリー試験』は始まってしまった。
リボーンが沢田家に来てからのツナの目標『一般人を巻き込まない』を簡単に覆してくれた。不合格の場合は死などという条件付きで。
まぁ喜ばしいことに(非常識すぎて悲しくもなるけれど)無いとは思うが、そのことは山本が実際に不合格になったとき考えよう。
「試験は簡単だ、とにかく攻撃をかわせ。んじゃはじめっぞ。まずはナイフ」
「うおっ」
そういってリボーンは山本に向かって、数本のナイフを投げつけた。
それを山本はどうにか避ける。一般人にしてはなかなかの反射神経と身のこなしだ。
ツナは山本の側についていた方が守りもしやすいので、リボーンと山本との間にわって入る。友達が襲われてるのに傍観者なんてのも無理があるし。
「ま、まてよ! リボーン!! 本当に山本殺す気かよ!」
そうツナが言って、動いたのは予想に反してリボーンではなく山本で、ツナの肩にがしっと腕を回した。
「まぁまてツナ。オレらもガキん時木刀とかで遊んだりしたろ? いーじゃねーか、つきあおうぜ」
「ツナもボスとして見本をみせてやれ」
「はぁ!?」
山本の後に続いたリボーンの言葉は予想通りだったのでよかった。
だが山本の言葉はありえない。
ナイフを投げつけられてもまだ子供の遊びだと思っているのだ。ただ赤ん坊が物をそんな一直線上に、しかも床に刺さるように投げられるはずがないというのに。
どれだけ天然なんだこいつ?
「そりゃーいい、どっちが試験に受かるか競争だな。さぁ逃げろっ!」
「そんなぁー! まったーっ!!」
山本に続いてツナが走り出すと、後ろからリボーンが次々にナイフを放ってきた。
ツナを参加させはしたが、やはりリボーンの目的は山本の能力をはかることなのだろう、ナイフは真っ直ぐに山本へと飛んでいく。
それを笑いながらヒョイヒョイと避けていく山本は、やはり一般人にしてはかなり上の方だ。
本当に一般人かと疑いたくなるほどに。
「さすが野球で鍛えているだけあるな、運動神経はバツグンだ」
「しかし最近のおもちゃってリアルなーっ本物にしか見えなかったぜ」
「まだおもちゃだと思ってんの!?」
それからリボーンの武器がナイフからボウガンへと移り。
さらにはランボまでが学校に侵入してきたらしく、校舎からうざったく自己紹介をし始めた。
だがそれはいつものごとくリボーンに無視され、ランボは泣きながらミサイルを取り出して打った。
「ちねリボーン」と言っているくせにツナたちのところへと飛んでくる弾に、お前は本当にプロかと問いかけたくなった。
リボーンの武器もサブマシンガンへと変わり、攻撃がだんだんと激しさを増していく。
山本は本当に避けるのが上手で、逆にダメツナのほうが危なげになってきた。
「10代目ー! (避けてくださいね!)果てろ!!」
「やれやれ十年後のランボがやるしかねーな。サンダーセット!」
「最後はロケット弾だぞ」
獄寺、大人になったランボ、リボーンの三人の掛け声とともに三箇所から一斉に攻撃が開始された。
おのおのが相当の爆発力を持つものばかりで、それが山本とツナに容赦なく襲い掛かってくる。
さすがの山本も、これには笑みを無くして顔を青くした。
「おいおい・・・」
「えええええ!!」
さすがにこれは山本一人でも避けることは難しいだろう。
そのうえ、心優しい彼ならダメツナを助けようとしてくるはず。そうなればなおさら避けられる可能性は低くなる。
咄嗟に山本の後ろにまわる。山本は当然、獄寺の位置からも見えない部分でツナはぐるんと体をひねり、地面を後ろに強く蹴りあげた。
地面は運動場だから、予定どおりツナと山本の周りに砂が宙を舞う。
視界が砂でほぼ遮られてから今だとばかりに、ツナはよろめいたフリをして、ミサイルの進行方向から山本を押し出した。
そして山本は、倒れ掛かったツナの手を握ってぐっと起こしてくれた。
その直後にミサイルなどがツナ達の至近距離に落ちた。爆発の影響がかなりきたが大きな傷は負わない程度だった。
「10代目ー! 大丈夫ですか、10代目ーー!!」
獄寺の呼ぶ声が聞こえた。
大丈夫だけど。というかお前だろ、オレを危険な目にあわせたの。
ツナは山本に肩を担いでもらったまま、獄寺に気づかれないような睨みを送った。砂埃がはれる。
「山本が引っぱってくれたおかげで、た、助かった・・・」
二人ともツナの機転により直撃は避けられたが、爆風・爆熱により服などあちこちが焦げていた。
ツナは山本に肩を離してもらった。その時山本がツナの耳元で他に聞こえないよう、ボソリと呟いた。
「ありがとなツナ」
どうやら遠くに居た獄寺などにはバレなかったようだが、山本にはツナが山本を助けたことに気づかれたようだった。
にこやかな顔をしていて、実は深く物事を考えているこの友人はやはり一般人には到底見えない。
「へ? 山本、なにが? オレのほうが礼言うべきだよ、ありがと」
「なんでもねぇ」
ツナは変なそぶりを少しも見せずに、ダメツナの仮面で対応する。
そんなツナをにかっと笑った山本に、リボーンが近づいて『入ファミリー試験』の合格を告げた。
その直ぐ後に獄寺も山本に歩み寄って、ガッと山本の胸元をつかんだ。
「よくやった。10代目を守ったんだ、ファミリーと認めねーわけにはいかねぇ」
オレ的には凄く認めたくないんだけど。
大体現代の日本で部下やらボスやらって冗談じゃない、普通にクラスメートやって、普通に友達するってことが出来ないのかこいつら。
二人がケンコー骨だのなんだのと言い争っている間に、ツナとリボーンと話していた。
ツナの肩の上にリボーンは腰を降ろしていたが、これは決してツナが乗せてあげたわけではない。リボーンが勝手に飛び乗ってきて、ツナは振り払うのが面倒だっただけだ。
こいつ、さわられるのが嫌なくせに、自分からは結構触れてくるよな。
「ツナ。山本アレ避けられちゃいねーだろ?」
「・・・・・ありがとなツナって言われちゃった」
ツナの言葉を聞くとリボーンは、意味ありげな視線でもう一度山本を見なおした。
その事に気がついた山本を値踏みしているのだろう、どうやらリボーンは山本に頭まで期待していなかったようだから。
「リボーン、オレ一般人巻き込むなって言わなかったっけ?」
「さぁな、オレは了承した覚えはねー」
「はー、お前に常識説いたのが間違いか」
「やっとわかったかダメツナ」
リボーンはニヤリと意地の悪い笑みを漏らした。
ツナはまだ言い合っている獄寺と山本を見て、呆れてふう、とため息をつく。
山本の方はともかく、獄寺のほうは随分と険悪な雰囲気をしていたが、明らかな体格差があるためそう簡単に乱闘には発展しないだろう。
ダイナマイトを取り出さなければの話だが。
そう考えていたのに何が踏ん切りとなったのか知らないが、獄寺がダイナマイトを取り出していた。
おまけにランボも子供に戻っていて、泣きつつ手榴弾をいくつも放り投げている。
イタリアじゃあマフィア間の抗争なんて日常茶飯事だったからああいう目立つことも出来るのだろうが、日本じゃそうはいかないのに。
これだからイタリア育ちは嫌いだ。
「ご、獄寺君、ダイナマイト仕舞ってー!! ランボー! もう変なの出しちゃ駄目! 山本も笑ってないでさーっ!!」
こんな心配も、人並みはずれた運動神経を持つ友人にはいらないかと思ったが、ツナはとりあえず止めに入った。
結局止まらなくて爆発を起こしたのだったが。
つまり砂埃で視界を塞いでから、山本を避難させたわけですよスレツっ君。わかりにくいっての俺。
ていうかどんなときも雲雀さまの名を出したい俺? またひとつ出せた。
07.05.21
