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ふと思い出したのだ。別にきっかけなんて無かった。そして未だにリボーンの行動の理由が思いつかなかった。
だから率直に聞いてみた。
「・・・なーリボーン。こないだボンゴレ9代目のとこ行ったんだってな、何しに行ったんだ?」
「教えて欲しいか?」
リボーンがやけに意味深に、そして馬鹿にしたようにいったのでオレは即座に言いなおした。
「や、別にいいけど」
「聞けよ」
こいつツッコミも出来たんだ。
そこまで言うなら何ももったいぶらなくてもいいのに。
「じゃ教えろよ」
「ただの仕事だぞ」
「え、ヒットマン?」
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突然ですが、こちら夏休みです。
そして場所はこれも突然ですが、外国の地だったりします。
さらにいうならイタリア。そう、マフィアの巣窟。ボンゴレファミリー本部がある場所・・・に向かっている。
そんな場所になぜ一般の(つもりな)中学生が行くのかといえば、死神の赤ん坊に無理やり連行されている途中なのであった。
彼が言うにはオレがすっかり熟睡中の深夜1時ごろ、クロロホルムをかがせてそのまま飛行機に乗せたとのこと。
で、今この状況。
あ、危険だから皆は真似しないように。
された人が泣いちゃうぞ。オレは泣かないけど。
「リボーン・・・もしかしてオレ、9代目とかに会わせるつもり?」
「愚問だな」
「会いたくないんだけど」
「オレが知るか」
先ほどからずっと堂々巡りな会話が続く。
リボーンが言うには、先日ツナが風邪を引いて、リボーンが仕事でイタリアへいったとき、9代目につれて来いと言われたのだそうだ。
次代のボンゴレファミリーボスが、以前見たときよりどれほど成長したのかをぜひ間近で見たいというのだ。(以前見たというのは視察に来たときで、それはツナの知らないことだ)
因みにリボーンは9代目にはツナの本性について何も言っていないと、さいさんツナが確認したからその辺は間違いない。
こちらから言わせれば、9代目自身で来いなどと思うのだが、いかんせんボスというものは忙しいらしい。
どうであれツナは行きたくなかったが。
今のっているイタリアいき飛行機も9代目が用意したものらしい。かなり早い飛行機らしく、しかも貸切だ。
マフィアのボスはお金の使い方が豪勢だと思うのは、ツナが平民だからだろうか。
「オレ、この飛行機降りたらソッコー逃げるから」
「駄目だ」
「やだね。全力使って逃げ出してやる」
「・・・仕方ねーな。9代目ともう一人別の奴に会えばのこりの日数はおまえの自由にしていいから」
ツナが真面目な顔でいえば、リボーンは条件付きではあったが珍しく折れてくれた。
「何日?」
「3日だ。会うのは2日」
「もう一人って誰?」
「教えねー」
3日もあればあれもこれも出来る。
今のオレにボンゴレ現ボスと会うこと以上に嫌なことはないから、別の奴もさほど気にならない。
だけど、とツナが心配事を気にしていると、それを読心術で読んだのかリボーンがツナの揺れる心に決定打となる一言をいった。
「ママンには一週間沖縄旅行をしてもらってるぞ。ふくびきで当ててやったんだ。いま帰っても家はもぬけの殻だな」
「買った!」
ここはボンゴレファミリー本部といったところ。もちろんイタリアで、ボスの部屋だ。
ツナたちの目の前にいるのは、初老のいかにも優しげな男・・・ボンゴレ9代目。他には彼が人払いをしたせいで誰も居ない。
「は、はじめましてっ! オレ沢田綱吉です・・・っ」
「はじめまして、知っていると思うが私がボンゴレの現在のボスだ。ツナヨシ、どうか素のままでいてくれないだろうか」
少しイタリア訛りのはいった日本語で話してくれた。
声を聞いても、そんなに偉そうな感じは一切しない。
だがどんなに優しげな笑みをうかべていても、体中からかもしだしている威圧感は誤魔化せていなかった。
いまのツナが素ではないと気がついたのも、その体に宿る忌まわしき血の所為なのだろうか。
しかしツナもそう簡単にバラすまいと、鉄の仮面かぶりつつ、きょとんと首をかしげる。
「ス? 何のことですか?」
「ふ、君のことはリボーンからよく聞いたからね、このあいだ」
ツナは笑った顔を保ちながらも、額にはピキピキと血管がはしった。
その怒りの矛先はもちろん、奴だ。
さっきの声より1オクターブほど低い、ドスの入った声。
「へーえ・・・リボーン、おまえ確か仕事だって言ってなかったか?」
「言ったぞ。仕事内容がヒットマンだと決めたのはおまえだがな」
ブチッ
張り詰めていたツナの血管が切れて、どんな被害をおこしたかは二人、いや三人の名誉のために皆さんのご想像にお任せしよう。
「で、もう一人会うやつって誰なの、ボンゴレ?」
いまツナは9代目に用意させた車(リムジンなどではなく普通の、とツナが望んだがかなり高級そう)にリボーンと乗っている。
どこに向かっているのかといえば、先刻リボーンの言ったもう一人会うべき者のところへ走っているらしい。
「ボンゴレじゃねーぞ。同盟ファミリーではあるがな」
そう言ったリボーンの声は平常としているが、その体は太いロープで縛られていた。どうじに手も縛ってあるが、足は自由だ。
それらは先刻キレたツナがやったことだった。まぁ他にも色々やったが。その辺も想像に任せておく。
別にツナの実態を9代目に話すのは仕方がないと思っている。それが仕事であるし、特に口止めをしていたわけでもない。
しかし何度もリボーンは言ってないと言った。
言ったのに嘘だったのだ。
ツナの我慢が限界だとしても、誰も責めはしないはずだ。
なんとなく黙っていた9代目にも腹が立ち。
9代目も同じようにぐるぐるに縛って部屋に内から鍵をかけてきた。ボスってのは何かと他人と会う機会が多いそうだから、今日中に気づいてもらえるだろう。
「オレに関係あるのはボンゴレだけだろー、何で会わなきゃいけないんだよ」
「ほら、着いたぞ」
はぐらかしたリボーンのその言葉とほぼ同時に乗っている車が停車した。
出てみれば、目の前にそびえるのは大きな建物。
ボンゴレまで大きいとは言えないが、周りよりひときわ目立っている。そして正面ドアの両脇にはいかつい顔したスーツの男が立っていた。
そしてリボーンはいつのまにやらロープからすり抜けていて、歩いていた。そう簡単にほどけるような結び方してなかったんだけどな。
そのままさっさとその扉へと向かうので、ツナも後を追った。門番がすぐにかけよってくる。
「ボンジョルノ!--リボーン-、------- -?」
「ボンゴレ---。----- ----。--ジャッポーネ ------」
「----。----- ---」
門番もリボーンも、流暢なイタリア語で話していたから、誰でもわかるような単語がいくつかしか聞き取れなかった。
あいにくと英語とドイツ語、そして中国語しかツナは習得していなかった。
「オイ野郎ども! お通ししろ!! それとジャッポーネの客人だ!」
すこし緊張した面持ちで見張りの男が叫ぶと、うぃーす!という返事に続き、正面のドアが開いた。今度は全員日本語だ。
ツナはすたすたと歩くリボーンに続きながら、血ほどに赤い絨毯が敷いてあるなか歩いていく。あちらこちらにある装飾は随分と高そうだ。
誰かに出会うたびに挨拶をされる。ツナにではなくリボーンにだろう。ここではボンゴレ以上に顔が知られているようだった。
しばらく行くと、ひときわ豪華そうなドアの前で立ち止まった。
恐らく会うべき人とはまたボスなのだろう。
礼儀を気にしないリボーンはノックも何もせずに、そのドアを開けた。
「ちゃおっス。ディーノ、久しぶりだな」
「うわ、リボーン? おまえ明日来るって言ってなかったか、えーっとそっちは・・・・」
「ボンゴレファミリー10代目だ。まぁ色々あってな」
「ちょっ、リボーン! オレマフィアのボスなんてなる気は無いって!」
ドアの向こうにいたのは、これまたいかついスーツの男が数人と、いかにもといった高そうな椅子に座る男。
白髪の混じった9代目とは違って、濃いきれいな金髪で、しかし学生かとも思えるほどに若い青年だ。
金髪の男は、頭のてっぺんから足先までじろじろとツナを見てくる。
「へー・・・これが10代目ねえ。初めからボスになる気が無いやつがいんだよ、な! リボーン」
「ああ」
「ていうかリボーン、この人誰だよ・・・?」
二言三言ならまだしも、ずっと男とリボーンは親しげに話しているので、ツナは男の説明を求めた。
金髪の男はわりぃわりぃ、といいながら頭をかく。半袖からのぞく男の腕にはイレズミがほどこしてあった。
「オレはディーノだ、キャバッローネファミリーの10代目ボスやってる」
「はぁ、オレは沢田綱吉です・・・・って、ええっ! ボス!?」
「おまえの前の弟子だぞ」
ツナの驚いた様子を見て、ディーノはにっと笑った。ひどく整っている顔が粋に笑ってかっこよく見えた。
あわあわしているツナをよそに、ディーノはぺらぺらと書類をめくる。
「そういえばあの、どこだっけ。ボヴィーノファミリーのヒットマンどうなった? 役たってるか?」
「は? ボヴィーノ・・・ランボ?」
「そうそう、そんな名前のガキだ。リボーンに言われてオレがジャッポーネに送ったんだぜ」
はは、と軽くディーノは笑った。
リボーンにいわれて? そんなの聞いたことも無けりゃ、そんな態度も見うけられなかったぞ?
一向に無視していたし、ランボが何かの役立っていそうな部分も無い・・・。
ツナはごく自然に見えるように、聞きなおした。
「リボーンは、ランボを何のために日本に?」
「んーなんだっけな。確かママンの見張り・・・いや護衛用? とか言ってなかったか? リボーン」
ディーノがくるりとリボーンのほうを向くと、そこには銃口があり、ついで引き金を引いて発射された。
ダン、と銃の発射音が響き、部下たちも息を張りつめる。だがリボーンも当てる気はなかったのだろう、それはディーノの髪をいく本か床に落とさせただけだった。
銃口からたちのぼる煙をふっと吹きけし、リボーンはそっぽを向いた。
「余計なこと言ってんじゃねー」
「悪かったって、怒んなよ」
ディーノがあわてて謝った。
照れ隠しなのだろうか、この呪われた赤ん坊の行動は予測もつかないし、なかなか理解できない。
なんだかオレの周りには行動が予測できない人が多い気がする。特に学校愛な人とか。
・・・ディーノの言うとおりランボを我が家に受け入れたのはリボーンで、その理由が母のためだとしたら。
確かに奴は、母のことを気に入っていたかもしれない。だけどそれだけであいつが何か行動を起こしたりするだろうか。
しかもあんなのなんて。
もしかしたら家、母自体を殺し屋たちが狙わないのもリボーンが何か手をまわしているのかもしれない・・・98%それは無いと思うけど。
「あんな格下をよこせとは言わなかったがな」
「ははは、しゃーねーだろ。部下をいきなりジャッポーネにやるって言う変なボスいねーよ。知り合いだしちょうどいいだろ」
「フン」
自分にむけて発砲されたばかりというのに、ディーノは普通に仕事をはじめていた。
いく枚か書類を処理をし終えると、机の電話が鳴った。ディーノがさっととって、話をはじめる。
ツナは小声でリボーンに問いかけた。
「リボーンもさ、母さんが好き?」
「・・・ママンの入れるコーヒーは美味いからな」
「だよなー」
前と同じ答え、ね。
周りに聞こえないくらいの声量でリボーンとツナが話し終えると、電話をしていたはずのディーノが、急に立ち上がった。
なにごとかを、多分イタリア語で恐ろしいほど早口に部下に伝えて、ジャケットをかっこよく羽織った。
リボーンはわかるようだが、イタリア語などほとんど聞いたことのないツナは頭にクエスチョンマークをかかげていた。
「?」
「すまんリボーン、ツナ!! 急用が入った、悪いがまたにしてくれ。オラ行くぞおまえら!」
その場にいた部下たちが一同そろえて「おうっ」と答え、何故だか窓から飛びでていった。
二人残されたツナとリボーンは顔を見合わせる。
いつもあんな? と聞けば、ボスってのは忙しいもんだ。と返され、ますますボンゴレボスにはなりたくないと思った。
その後ツナは残りの日数、たっぷりとイタリアを堪能した。
リボーンが嘘をついてツナの本性を事細かに9代目に話していたことで、当初3日間だったツナの自由な時間は、4日間へと変わったことも今から思えばいいことだ。
ツナがイタリアで最もやりたかったことは読書だ。
イタリアはご存知ルネサンス発祥の地であって、芸術が特に発達していった国であるために前からかなり興味があった。
有益とも断言しずらいが、歴史を学ぶことは決して無駄ではない。
残念ながらイタリア語は覚えていないため、ツナは辞書を片手に四苦八苦しながら本を読み漁った。
ツナはいつも近くの大きな図書館に行っていたが、そこに忙しいのか暇なのか忙しいのにさぼってきているのかまぁその辺わかりたくもないが、ディーノがときたまやってきた。
おおかたツナが集中して読んでいたため、ディーノから話しかけてくることはほぼ無かったが、イタリア語習得にずいぶん手を貸してくれた。
そしてある程度スムーズに読めるようになっても、ディーノはあいかわらず図書館へと足を運んできた。
ちなみにリボーンは人には本を読めというくせに、こんなとこに居たくねぇと入ることはなかった。
名残惜しみつつツナが帰るときも、ディーノは部下総出で見送りにきた。
ついでにいうと、こちらも部下総出だが9代目までもが空港に来ている。
ボスってのは案外ヒマなのかもしれない、とツナは思った。
「じゃーなツナ。オレもジャッポーネに行くからよ。おまえもまた来いよ!」
そういって眩しい笑い顔で手を振るディーノに、ツナはかるく会釈をした。
「ArrivederLa. Grazie mille.(またお会いできるといいですね。ほんとうにありがとうございました。)」
「,,,,,,,,,,,,Figurati, ci vediamo.(どーってことねーよ、またな)」
ツナが少々いびつなイタリア語で話すと、ディーノは目を見開き、言葉をかえした。
言語習得なんてそう簡単なものじゃない。
読解はできても発音や聞き取りは、教えてくれる人がいないとまず難しい、だからディーノの行為はとてもありがたかった。
9代目には適当に返事をして、リボーンとツナは来たときと同じ専用機にのりこんだ。
因みにツナがリボーンと9代目に本気で切れたとき、9代目はなんでもする、と言ったため本を大量購入してもらった。
それはこの飛行機につんである。帰ってもしばらく暇はしないだろう。
何だかんだいって全体を通してみれば、このイタリア行きはツナにとっていいものになったんだろう。得たものがおおきかった。
「何うなってんだツナ」
「んー・・ディーノって人ツナから見てどんな立場の人にしようかと思ってさ。また日本来るって言ったし」
「兄弟子だから兄でいんじゃねーか」
「あ、いいなそれ。尊敬って感じ?」
「お兄ちゃんとか言ってやればどうだ」
「オレどんなキャラだよ」
知識はかてとなり、やがて自身の武器となる。
長らくお待たせしましたです。今回の雲雀さまは無理矢理すぎた気がします
(*゚д゚)ハッ!! 次も出ない感じだ雲雀さま。サーセンっ
07.07.29