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もう何度目かわからないが、また殺し屋である。
本当にわずらわしい。
ただいつもと勝手が違うのはツナを狙うやつらが、かなりの数だということ。
今まではそこいらや家の周りなんかで、適当に処理してきたのだが今日はそうもいきそうにない。
実力は前の奴らとさほど変わらないが、10人以上・・・16人いるとなれば話は別だ。
家を巻き込みたくはなかった。
一度家に帰ってから即効で着替えて出ていき、目立たなくなるだろう夜まで引っ張りまわした。
あとは適当にやるだけだからと、ツナは無防備に人影の少ない路地に入った。
これぞ勝機とばかりに、強面の男たちがツナを取りかこむ。
こいつらにダメツナでいる必要はない。どうせリボーンが処理して終わる。
そう思ってツナはがらりと表情を変えて笑った。
「あーもう。でも、これだけ人数いるんだから楽しませてくれるよね」
ところがどっこい、弱すぎて話しにならなかった。期待していたというのに欲求不満だ。
こないだのヒバリと対峙した以来、中々楽しんで戦うことが出来ない。
もっと強い奴と。もっと上の奴と。
ヒバリと戦いたいという気持ちが治まらなかった。
これ以上彼を避けていても、この感情が治まることはないだろうと感じたツナは、人が溜まっている場所を探し始めた。
雲雀恭弥は群れている人間が嫌いだから、群れを襲ってそうだ。
だが彼の痕跡はなかなか見つからなかった。
随分捜した歩いてそろそろ足がだるくなってきたころ、男たちが十人程度で倒れているのがツナの視界に入った。
どれも強い打撲・・・ヒバリだ。
ツナが、同じように倒れている奴らをたどっていると、目的の人を見つけた。
月明かりのみがその姿を照らし、肩にかかっている学ランが風で揺れている。
周りには誰もいなかった。
ツナは声をかけた。
「風紀委員長さん」
「・・・綱吉。なんだ、やっと殺る気になったの?」
「ええまぁ。貴方以外じゃ満たされそうにないもので」
第三者が聞いたら、うっかり変な関係を想像してしまいそうなほど抽象的な会話を交わして。
ツナはドクドクと奥から出てくる高揚感に身を任せたまま、ヒバリに近づいた。
「こないだので全力、なんてことないですよね」
「まさか。君も草食動物を狩るときに全力を出さないだろ?でも君は肉食獣だったみたいだから、手加減はなしでいいね」
「どうぞ。俺も真面目にやりますから」
会話が終了するとすぐに、ヒバリのトンファーがうなりをあげる。
振っても振っても、髪先や服先にかすることがあるだけで、一向にツナの体には当たらない。
ツナはこのあいだの敗北条件にも気を配りつつ、紙一重でヒバリの攻撃を避けていた。
「防戦一方?こないだもそうじゃなかった?」
「風紀委員長さんこそっ。攻撃ってヒットしないと意味ないですよね」
そう挑発すると、ヒバリはトンファー以外も使い始めた。
蹴りも、ひじ打ちも繰り出してくる。どれも鋭く、このあいだの打撃よりも速い。当たればまずいことになりそうな攻撃だ。
だがそれはツナには一回もあたらない。
ひらりひらりと避けるその姿はなにか、人間以上の位をヒバリに彷彿させた。
すっきりする。
ああ、俺の求めてる物はこれだったのか、と感じるほどに。
幼い頃から、直感に諭されて体を鍛えたりしてきたのが初めて報われた、そんな感じ。
前回は少し理性がぶっ飛んでいてはっきりとは感じなかったが、今は確かに強い奴と戦うことに喜びを感じていた。
ツナはひとまず思考が途切れた辺りで一息つき、反撃に出た。
ガッ
しゃがみ、地面に手をついたその反動で、トンファーを思いっきり蹴りあげた。
トンファーはヒバリの手から離れ、空へ舞い上がる。
高くとび、くるくると円を描きながら落ちてきたそれをツナが掴みとる。ぶんぶんと試しに振ってみた。ツナの腕の周りにきれいな円がいくつもできたような錯覚を起こす。
「へー、軽いんですね、思ったより。・・・先の重りで攻撃力を高めてるのかな」
「・・・ちょっと。人の武器取らないでよ」
「取られるほうが悪いんですよーっと。使いづら・・・」
ツナはトンファーをヒバリに向けて振るったが、中々使い勝手が難しいらしく、簡単に力を流されてしまう。
それでも何度か使っているうちに、慣れてきたのか、だんだんと流されることはなくなってきた。だがしっかりと受け止められている。
命中はない。
「っ、僕には武器なしでも勝てるんじゃなかったの」
「認めるってことです。正直あなた相手に、武器なし、ではキツイので」
ヒバリの目が一瞬見開かれたが、またすぐにいつもの鋭い光がやどる瞳に戻った。
しかし、この人どこでこんなに鍛えてるんだろう。ってまあ、それは自分にもいえるんだけど。
ツナの場合は自主練で、ある程度力がついた後は、訓練になるような強い相手が見つからなくて少し困ったものだった。
今じゃ時折リボーンに相手をしてもらったりもするが、体格差というものがあり、自分と同じくらいか、それ以上の相手の練習もしたいと思ったものだった。
しばらくの攻防の後、ヒバリの攻撃がツナの右頬をかすった。
かすっただけだというのに、ツナの頬は鋭利に切れ、血が頬を静かにつたった。
トンファーを含んだリーチを完璧に把握したはずなのに・・・やっぱり凄いなこの人。
ヒバリの攻撃の手は緩まない、ツナも前より余裕を持って避け始めた。
「あ、のー。どっちかがどっちかのトンファー奪えたら終わりにしませんか?」
「・・・・・なんで」
ヒバリが不機嫌そうな顔をする。
「いえ、まあ、顔に傷が出来たら結構困るんですよね、オレ」
「なんで」
「風紀委員長さんには言えません」
さらにヒバリの眉間が寄って谷を作った。
学校では別にいじめられた、で通る。・・・獄寺はうざったいだろうし、ヒバリには同じところに傷があると言及されそうだが。
だけれど家だと、母に心配をかけてしまう。
見るかぎりじゃ鋭く切れているから、刃物がどうとかまで言い出すかもしれないのだ。
「勝ったら、学校でも今のままでいること」
「へ?・・・・あ」
ヒバリの言ったことにキョトンとしていると、ツナのトンファーは跳ね上げられた。
ツナの持っていたトンファーは再び宙を舞う。
「チェックメイト、とでも言うのかな?」
ヒバリは、にっと笑って落ちてくるトンファーを取ろうと上を向いた。
「・・・残念、ですね。学校って何のことですかっ」
ツナはヒバリより先にキャッチしようと、高く飛んでそれを掴みとった。
ツナの行動に呆気をとられていたヒバリの腕を引っ張り、引っ張る向きとは逆に足をかけてバランスを崩させた。
そのヒバリからもう一つのトンファーも奪い取る。
「こっちこそ、チェックメイト・・・って何ですか。かっこつけてるみたいじゃないですかコレ」
「・・・まあ今回は僕の負けでいいや。またね、沢田綱吉」
そういうとヒバリは立ち上がって、ひらひらと手を降り、その場を後にした。
”夜会う綱吉”と”学校の沢田綱吉”はヒバリはもう同じものと考えているようだ。まあ顔は暗くて見えてはいないとはいえ、声とか体躯は同じだから不思議はない。
だが、ツナが教えた名前は綱吉だけで、今までヒバリも綱吉としか呼ばなかった。それなのに綱吉でなく沢田綱吉と言ったということは、これから学校でも関与するということだろうか?
タダでさえ目立っているというのに、風紀委員長と係わり合いがあるとするならさらに目立つこと間違い無しだ。
どうなるオレの学校生活。
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「オレもそーじゃねーかなーって思ってたんだ、さすがツナ気が合うねぇ。お〜し 今日は居残ってガンガン練習すっぞーっ」
ガハハハと山本武は笑った。
野球で負けたほうがグラウンド整備、そしてダメツナのせいで負けたのでダメツナに押し付けて皆は帰ったのだった。
本来ならば獄寺がそれを止めただろうが、あいにく今日彼はダイナマイトの仕入れに行っていていなかったため、今のような状況だ。
山本は勝ったのに、残って手伝いをしてくれていた。
ああそう。
どうでもいいからさっさと掃除を終わらせるために、口より手を動かしてくれ。
背後にものすごい人がいるんだから。
もし後ろの人との関係が、山本に知られたら人気者である彼だ、どこまで広がるか分かったことじゃない。
それだけは避けたい。
急いでグラウンドを整備し終えると、オレは教室へと戻った。
するとその人はすぐ教室に入ってきた。
「綱吉」
「ヒ、ヒバリさん!?どうしてここに?ってか何用でーー!?」
「煩いな、もうその変なのやめなよ。人が来るかもしれないんだから、さっと終わらせたほうが綱吉には助かるんじゃないの?」
さっきからツナを見ていた人とはヒバリであった。
山本とともにグラウンド整備をし始めてしばらくしてから、ずっとツナのほうを見ていたのだ。
確かに足音はまだする。放課後といっても部活関係のひとはまだ部活中なのだから当然だ。
そしてヒバリはときおり連れている風紀委員も居らず、一人だった。
「気を使ってるんだけど。別に僕としては授業中に綱吉を連れ出すことも出来るしね」
「気ー使ってくださるなら学校では近寄らないで欲しいんですが。オレ学校では今見ていた通りですし」
「それは無理な相談だ」
ツナははあ、とあからさまにため息をついた。
「雲雀さん・・・何の用ですか」
「最近はどこで殺ってるの?全然会わないよね」
確かにあれ以来ヒバリと会ってなかった。というかこちらが避けているのだから会うわけがない。
しばらく離れていればあの闘気は治まる、いや治まって欲しいと思って避けていたのだ。
長く戦ったりを続けていればヒバリとの戦いに依存してしまうかもしれないから。
それでもそれは治まることは無かったが。
というより、どこで殺ってるのってオレは欲求不満の連続殺人犯かなにかか!
どこでもやってない、最近本当にダメツナを狙う殺し屋以外とやることはなかった、がそれは言わなかった。
「別に。たまたまなんじゃないですか」
「そう?ま、会わないようなら学校で襲うからそのつもりで」
「は?」
「じゃあね」とだけ言ってヒバリは教室から去った。
ツナはそれ以来、雲雀さんが悪いんだ、学校で襲われたら困るからだとブツブツいいながら夜の街に繰り出していた。
自分が望んで行ってるわけじゃないからなと言いつつ、少し嬉しげな歩調で。
ツナは怪我を時折してきたが、服の中の見えない部分がほとんどだった。
ええっと、お互いとの戦闘に依存しちゃいました、的な?戦闘仲間って感じです。雲雀も原作より強いのかな・・・ツナと連日バトるんだし。
ああ、戦闘シーンなんてかけないのに。
襲うってそっちじゃないですよ笑。普通に戦いを挑むってほうの襲うです。
07.03.11
