望みの果ては 11話



夏休み前のこと。
ビアンキという女がツナの家に住みついた。
ビアンキは通称「毒サソリのビアンキ」という名の通った殺し屋で、リボーンの愛人(4人目らしい)で、獄寺の姉だった。
当初はリボーンを最前線へと連れ帰るために、ボンゴレファミリー10代目第一候補であるツナを抹殺するのが目的だったビアンキだったが、なぜか今はすっかりツナの家庭教師として居座っている。
そんな彼女の得意技はポイズンクッキング。ビアンキが作った料理が全てが猛毒となる恐ろしい技である。

そしてこれも夏休み前のこと。
三浦ハルという女がツナに懐いてきた。
ハルはここら一体じゃ有名な名門、超難関エリート女子中「緑中」の生徒だ。見た目はエリートといった感じは一切見られないが。
初めはリボーンと知り合うために声をかけてきたらしいが、いろいろあって(本当にいろいろあった)ツナを好きだと言い出したのだ。
別に殴られたことを根に持ってるわけじゃないが、付きまとって変な騒動を起こすのは勘弁してほしい。
彼女の不思議な行動はいまだに理解も予測もできない。

そして夏休み中。
不覚にもリボーンにイタリアへと連行された。
そこでは9代目ボス、兄弟子ディーノなどと出会ってしまった。
9代目はといえばいたずら好きで、有りえないほど過保護で面倒なおじさん。
ディーノは・・・まぁやつらほど非常識すぎるわけじゃなかった。彼のおかげでイタリア語もずいぶんわかるようになったし。

彼女達や、彼ら、いままで出会ってきた奴らは一人出会っても騒動の原因となるのに複数集まると相乗効果か何倍にも発展する。
もうこれ以上オレに関係する人は出てこないで欲しいと思うのはわがままだろうか。否!正常な感覚のはずだ。
せめてディーノさんくらいのでいてほしい。
だがツナがいくら望んだところで、ツナの思うとおりに物事は進まないあたりまで来てしまっている。いるかもわからないが神様はそう甘くはないのだ。だからと言って平凡な生活を望まずにはいられないツナだった。



夏休みが明けた今日、始業式。
ツナはまたも面倒な奴と知り合ってしまった。

「オレはボクシング部主将、笹川了平だ! 座右の銘は”極限”!! お前を部に歓迎するぞ沢田ツナ!」

どうでもいいんですけど、オレの名前は沢田綱吉なんですが。
ツナの目の前にいる男は、今朝遅刻しそうになったツナが死ぬ気にされて、全力(というほどでもないのだが)で学校までは知ってきたときにツナの腕をつかんで、引っ張られてきたやつだ。
申し訳ないと思っていると今言われたとおり部活に入れと迫られた。おまけに京子の兄らしく、京子までもが寄ってきた。
そして今、男はようやく自己紹介をして、ツナは了平の名前を知ることができたのだ。補足するならばその部活がボクシング部だということもついさっき来た京子によってわかった。

「だめよ、お兄ちゃん。ツナ君をムリヤリさそっちゃ――」

「ムリヤリではない! ・・・だろ? 沢田」

「えっ!」

了平は当然、といった風に胸を張っていた。
明らかにムリヤリだろ・・・そもそもオレOK言ってないし・・・・・。

「では放課後にジムで待つ!!」

「あ、えっ、やっぱり僕っ・・・」

ツナの呼び止めの声も空しく、了平は一度も振り返らずにそのまま校内へ向かった。
ツナは断りたいんだけどな〜という希望と期待をせいいっぱい表情で表しながら京子の方を見たが、そういうものは笹川兄弟には通じないかったらしい。

「ツナ君すごいな、私もうれしくなっちゃった。あんなうれしそーなお兄ちゃん久しぶりに見たもん」

そう言って京子は無邪気で愛らしい笑顔で笑った。普通の男子生徒ならば落ちているところだろう。
駄目だ・・・ダメツナじゃ断りきれない・・・。
死ぬ気弾のおかげで遅刻はせずにすみ風紀委員の目に付くことも無かったが、その代わりにしては重いできことが降りかかってきたツナはその原因とも言えるリボーンを軽く恨んだ。
そして自分とヒバリをも恨んだ。
昨夜いつものごとくストレス解消と称して風紀委員長とともに夜の街で暴れまわったのだ。その際余計なことをやりすぎて家に帰れたのは日が昇りはじめる2時間前で、眠れた時間が少なかった、それが今朝寝坊した第一因だ。
ちなみに第二因はランボの夜泣きだ、最近喜ぶべきか悲しむべきか少し慣れてきてはいるが。



神様、平穏平凡に目立たずひっそりと生きたい、という望みはそんなに重いものなのですか。
ツナは意を決して、ボクシング部部室へと向かった。途中無差別通り魔をしているヒバリを見かけた。とりあえず相手にご愁傷様ですと心の中で言っておいた。
扉を開けようとすると、偶然か扉は開いて了平が出てきた。

「おお、沢田まってたぞ! お前の評判をききつけてタイからムエタイの長老までかけつけているぞ」

「は? タイの長老・・・?」

「パオパオ老師だ」

「パオーン!」

ボクシングなのになんでムエタイ・・・。まぁ似てるっちゃ似てるけど。
了平がタイの長老、パオパオ老師だとかいうものを紹介するも、ツナにはリボーンにしか見えなかった。
いつもの黒スーツに大きな帽子ではなく、短パンにまるいグローブと象のかぶりものをしている。かぶりものの上には小さな象まで乗っていた。

「オレは新入部員と主将のガチンコ勝負が見たいぞ」

「んな! お前このオレにボクシングやらす気か!?」

というより新入部員VS主将ってどうよ。普通新入部員が圧倒的に負けて終わるだろ。それに何かがあって新入部員が勝ってしまったとしたら主将の面目が立たないだろ。
しかも皆来てんじゃん! オレにダメツナでボクシングやれってのか!?

「あたりまえだ、ちったー強くなりやがれ」

ツナが精一杯表情に表して訴えるも、リボーンには効かなかったようだった。
ダメツナを鍛えるとでもいうことだろうか。またファミリーがどうとかとか言い出すんじゃあるまいな。
そのリボーンの意見に了平も賛成してしまい、後ろには獄寺、山本、京子までもが来て、象のかぶりものをしている赤ん坊をリボーンと誰も気づかないままスパーリングが始まってしまった。
グローブ、短パンがボクシング基本中の基本の装備だが、それにくわえてツナはTシャツと頭あてをしている。

「ゆくぞ沢田ツナ! 加減などせんからな!!」

・・・・オレの名前綱吉なんですけど。
ツナがコレ何度目のつっこみだろうと思っていると、試合開始の合図に独特の高い金属音を鳴らされた。
その音と同時に了平が突っ込んでくる。当然皆がいる前で仮面をかぶらないわけにもいかず、その拳を顔に受けて、ツナは倒れた。

「油断するな沢田!」

倒れた俺を見て、山本・京子は心配そうな、獄寺は唖然とした表情をしている。
いま気づいたのだが、実力差がかなりある相手とスパーリングをして力がのびるわけが無い。
よって表のツナはこの試合によって成長することはない。死ぬ気弾を使ったときのことなら話は別だが。
どうやら初めからそのつもりだったらしい、リボーンは銃を構えた。



死ぬ気モードのツナの右ストレートが、みごとに了平の左頬へ吸い込まれるようにぶち当たった。

「断る!」

「ぐはあぁっ!!」

その衝撃で了平が飛ぶ。次の瞬間ツナの死ぬ気は解けた。

「や、ばっ!」

了平が吹っ飛んでいく放物線上には大きな窓があった。
このまま行くと了平は確実に、頭からガラスに飛び込む形になってしまう。そうしたら軽傷ではすまない。
ツナは急いで硬い地面をけって跳ねた。
ガラスに突っ込んでいく了平の体を、ガラスから庇うように引き寄せて抱きこんだ。
反射的にツナは窓際をけって膝をおり、ガラスに激突するスピードを緩めたが、そのまま二人して突っ込んだ。
ガッシャーン、とその音のとおりガラスはこなごなに砕け散った。

「お兄ちゃん! ツナ君!」

「10代目ーーっ!?大丈夫ですか!?」

「ツナ!!」

「部長ーっ!」

傍観者でいた三人とその他部員達がうずくまっている二人のもとへと駆け寄ってきた。
ツナより早く了平が立ち上がる。

「大丈夫だ、すまんな沢田! ますます気に入ったぞ!」

「いってー・・・うわ、ガラス粉々じゃん!あ、すいません、お兄さん大丈夫ですか!?」

ツナは了平の全身をくまなく見てまわった。
すり傷程度のものは数箇所あるが、ツナが一発入れた頬よりひどいものは無く、ほっと息をついた。

「お前のボクシングセンスはプラチナムだ!! 必ずむかえにいくからな!」

「もー、お兄ちゃんうれしそうな顔してー! 二人とも大丈夫なの?」

「あ、うん! 全然平気だよ! お、お兄さんこそ大丈夫かな・・・?」

殴った感触からすると結構力いれたみたいだったから。
だが了平の様子をみると、そこまで痛んでないみたいだった。
とりあえず、あのままガラスに激突して大怪我間違いなし、という惨事をまねかずに済んだことにツナは安堵した。
ツナが立ち上がろうとすると、左の足がズキリと痛みひざが抜けた。ツナの体は体重のかけ場を失い、再び床にひざをつく。

「・・・・」

「10代目!! だ、大丈夫ですか!? どこか痛めたんですか!?」

「や、これくらい大丈夫だよ。ほら・・・っ痛」

獄寺が青い顔をして、おおいに慌ててきた。心配させまいと笑って患部を叩いてみせたが、そんなに大丈夫じゃなかったらしくツナは呻いて顔をしかめた。
そんなツナを見てますます獄寺があわてる。山本まで心配そうな顔をしはじめた。

「ツナ、マジで大丈夫なのか? 派手に突っ込んでたけど」

「だから大丈夫だって、・・・・ちょっと痛いけど」

「たっ大変だ! 保健室・・・いや、病院行きましょう10代目!!」

「うわっ。ちょ、な、何すんの獄寺君!」

獄寺がツナを、俗に言う姫様抱っこをして抱えあげた。
ツナは突然来た浮遊感への驚きよりも、まわりにいる皆の目線が恥ずかしくて声を荒げた。
山本も京子も了平も他の部員も、唖然としたような顔でツナたちを見ている。なんら表情が変わっていないのはリボーンだけだ。
獄寺が部室外に出ようとしたのをツナは必死こいて止めようとした。
そんな病院にまでいかなきゃならないような怪我じゃない。どうせ打ち身か酷くてもねんざだ。

「っ獄寺君、降ろしてー! そんな病院とかいかなくて大丈夫だからっ」

「大丈夫じゃありません! 大怪我してたらどうする気なんですか!」

「大げさだよー・・・」

ツナはどうにか、部室を出る直前に獄寺からおろしてもらうことが出来た。
とりあえず保健室に行って包帯を巻いてもらった、ただの軽いねんざのようだった。
そう保険医から伝えられても獄寺はまだ心配しつづけた。山本は心配性だな〜と笑って、リボーンはいつまでたってもダメツナだな、と言った。
うるさいな、しょうがないだろ身体が動いちゃったんだから。
ひとまず、獄寺に支えられてまた笹川兄弟の待つ部室へもどる。

「さすがは10代目です!! でもあんな芝生頭助けなくても良かったのに!」

「へ?」

「渋かったっス!!」

獄寺はキラキラと光るその眼差しをツナに向けてきた、グッという音が聞こえるかのように両の拳を握りしめたポーズで。
まあさほど隠そうとしたわけでもなかったから、気づく人は気づくだろう。
でもこの男、気づいていながらダメツナがあの状態の了平を助けることができたことに、何の疑問も浮かべないのだろうか。
だとしたら相当の馬鹿だ。
リボーンは気づかないわけが無いだろう。京子は気づかなかったらしい、了平も同じく。山本は・・・。

「ツナ、いー具合に吹っ飛んだもんな〜。笹川兄かばうように」

「ダメツナだからな」

いつものごとく天然を前面にあらわしながら軽快に笑っている。・・・・気づいているのか気づいていないのか。よくわからない奴だ。
リボーンが、いまだフラフラしつつそれでも立ち上がっている了平に歩み寄った。

「オレもお前が気に入ったぞ笹川了平。おまえファミリーには入らねーか」

「?」

「コラー! リボーン!! 逆スカウトすんなよーー!」

確かに了平は一般より強いかもしれないが、それはあくまで一般という枠ではかったときの話だ。
正攻法でいくと恐らく使えない。見た限りでは頭もない。鍛える気でもあるのだろうか。
リボーンが?彼を?よほどのことが無い限り無さそうだな。






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お兄さんはそういう対象で見たこと無いけど、天然受けだと思います。可愛いです。ルッス→了
もしくはそういうゴタゴタの中で一人勘違いしながら突き進みそうです。
約、2年ぶりの更新…!っていうか、単に書き溜めていたけど出してないやつを出しちゃおう、な感じです。2.3話進んだら止まります。
09.07.6

photo by So-ra