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なんていうか、俺には珍しく一目惚れってやつで、口説きに口説いた。
押しに弱かったみたいで、数日すると、勝手にしてくださいと言われた。
許可もらったんだしそりゃあ勝手にするさ!手始めに家に押し掛けるのは常識だよね、ついていくと困った顔をされる。
なんでも、わりと特殊な住居らしい。説明してくれた。
「ルームシェア?」
「ご存知ないですかね。アパートの一部屋二部屋を数人で住んでるんですよ、家賃や光熱費は割り勘で」
「あー、あれかぁ、大丈夫問題ないぜ」
NANAの人数増量版みたいな感じだろ?言うと、・・・ま、百聞は一見にしかずです、と彼は言った。
ちなみに一目惚れ相手が男であることは何の問題もない、俺は博愛主義だからな。
彼、本田菊は仕方なさそうにしながらも、俺を追い払うことはせずその部屋に向かった。
***
「うわぁ・・・ガチで?」
「えらくマジです」
向かった場所は狭くて物が溢れてて、到底、某少女漫画のような良さは見受けられなかった。
何しろ、ルームシェアに使われている部屋は狭い2部屋。対して、入っている人間は管理人だという菊を含めて5名もいるらしい。
聞けば、当然かもしれないが女はおらず、どれも菊よりでかい男連中ばかりだという。救いようがあるのはみんな若いということぐらいだ。
俺が絶句していると、人懐こそうな青年が、菊に尋ねる。
「ねぇねぇ菊、この人だれー?」
「・・・誰ですっけ」
菊は俺を見て眉をひそめる。
恋人、とか紹介してくれると期待するほど図々しくはないつもりだけどさ、お兄さんちゃんと君に自己紹介したよね?泣いちゃうよこんにゃろう。
「ボンジュール、フランシスお兄さんだよー」
営業スマイル、きらり笑ってみせれば青年もすぐに破顔した。
「ヴェー、フランシス兄ちゃん?オレフェリシアーノ!パスタと菊が好きだよ!」
握手した手が、その言葉に固まる。すぐに本人から訂正が入った。
「フェリくん、私は食べ物じゃありませんよ」
「でもオレは菊が好きだよ?」
首を傾げてフェリシアーノが言うと、菊はわずかに顔を赤くする。
「はいはいライクライク」
百歩譲っても恋人の雰囲気ではないことに、少しだけ安堵する。
菊は押しに弱いのは知ったばかりだ。
シェアルームの4人の中に菊に恋を寄せる奴がいたら、一瞬で落とされちゃうんじゃないか?そんなことが頭によぎり、愛に生きる俺の行動は決まった。
「菊ちゃん菊ちゃん、ここ何人まで入れるの?」
「一応、最大収容数は6人ですが」
今は5人。ってことは、
「じゃあ俺、入居希望するわ」
「はい?」
菊は眉を下げる。
「誰だっていいんだろ?いいじゃん」
「・・・言っときますけど、女性連れ込めませんよ」
「今の俺は菊ちゃん一筋だから!」
「・・・基本的にお金に困ってる人が入居するんですが」
「困ってる、チョー困ってる。田舎の母が大病患ってて給料ほっとんど仕送りだもん」
それは大嘘だけど、菊は確実に気づいてるので、罪悪感はない。
「個人の時間ないですよ?」
「あ、じゃあ菊ちゃんと二人きりの時間?そんなまだ早いって!お兄さん照れちゃう」
「お引き取りください」
「待て待て、冗談だって!」
菊はため息ついて一枚の紙を出してきた。誓約書と書いてある。
でかいフォントで『犯罪だけはご遠慮ください』と書いてあり、その下に箇条書きにして小さく5つだけ何か書いてあり、それ以外は名前欄とハンコ欄のみだ。
「サインどうぞ。入居完了します」
「え、簡単すぎねぇ?そんなんでいいの?」
「ややこしいの嫌いなんで」
なるほど。妙に納得した。とりあえずその日は自宅に戻り、荷物整理をすることにした。
女の子からの贈り物は換金すればいいが、悩ましきは大量の漫画本だった。泣く泣く、特別思い入れのある数作品を残して、実家に送り付けた。ちょっと売るのはいただけないんで。
かくして、俺は狭っ苦しい部屋に住むことになった。

続く気がする。 続きました。
09.1.17