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「なあヒバリ、ここってクーラーねぇの?」
「・・・・・・」
なんなんだろうかこの男は。
並盛中の秩序、支配者、絶対的恐怖、とまで恐れられているヒバリがいくらトンファーで殴り倒しても寄ってくる。
始めのころは応接室に来るたびに追い払っていたのだが、山本は懲りずに来るから面倒になってずいぶん前から無視という行為を採用している。
それでも飽きずに話しかけても来るし、絡んでくるこの男。
ヒバリの制服の端をぐいぐいとうざいくらいに引っ張ってくる。
「なーヒバリって!暑くねーかこの部屋〜・・・・クーラー」
ちなみに言うと今ヒバリは高級ソファにすわり、書類整理中。山本は同じソファ上でときおりヒバリにちょっかいをかけつつ、寝転がっている。山本の頭が軽くヒバリの太ももにかかっている状態だ。
暑いなら離れてくれ。
ヒバリはそう思いながらも、言っても聞きはしない山本にたいして言葉を発することさえもわずらわしく感じ、無言でエアコンのスイッチだけ入れた。
ヴィーンと無機質な機械音が響くも、その冷気は直接こちらに来ない。
ヒバリが直接エアコンからだされる空気に触れることが嫌いなため、ソファなどから離れた位置にエアコンを設置しているからだ。
そのことに山本は不満そうな表情を浮かべる。
そしてソファから離れないまでも、腰を浮かべてエアコンに向かって手を伸ばす。だがその手が届いても己の体に当たらず、不満だったらしい。
山本はソファからついに離れて、もうひとつあるソファをエアコンの風が直撃する場所へと移動させた。やっとやっかいものが離れた、とヒバリは安心して書類整理を始めた。
たが、間もなく後ろからヒバリの服をまたくんくんと引っ張ってきた。
山本が対応するまで引っ張るのをやめないのをわかってしまっているヒバリは、全力で無視をしたかったが仕方なしに振りむく。
「あっちのソファに座れよ」
「なんで僕が・・・」
「いーからいーから。涼しいぜー」
ヒバリははあ、とわざとらしくため息をつく。山本の手を振りはらって彼の言うソファーに腰かけた。
山本もすぐに横に沈みこんできた。
エアコンから出るあからさまな冷気がヒバリの顔を、髪を撫で付け不快にする。
ごろんとヒバリの方へ頭を向けて寝ている山本が、もぞもぞ動くのがくすぐったい。
「ちょっと、ウザいんだけど。動かないでくれる」
「―――なあ、オレって世界一幸せかもしんない」
「・・・頭わいたの」
変な動きがようやく止まったかと思えば、今度は口が変だ。なにを考えてその言葉なんだ。
この男はすべて思いつきで言葉を吐く。
人の思いつきなど常に突拍子がないのだから、それを喋る男の考えていることなど考えようとするほうがおかしいのかもしれない。
「だってよ、クーラーもヒバリもひとり占めってやつで?」
「・・・・・」
「好きなものと一番好きなものだぜー俺幸せなー」
「クーラー僕にも当たってるけど。ひとり占めじゃないよ」
むしろヒバリのほうに多くあたっている気がしてならない。
すぐに席を離れたくなるくらい、顔に当たる冷気が気に入らない。
「じゃーヒバリも幸せな」
「僕はクーラーなんて嫌いだね」
「・・・・オレは嫌いじゃねーの?」
いつのまにやらヒバリのひざの上に山本の頭はのっていて、そこからヒバリをじっと見てくる。
何気なく目じりが下がっている気がする。
「嫌いじゃない」
ヒバリは山本の目をじっとみて言った。
山本の目が見開かれ、次に薄く細められる。
寝ていた体を起こして、ヒバリのほうへと両手を広げてきた。ヒバリはふいとそっぽを向く。
「ヒバリ・・・オレ」
「好きでもないけどね」
山本の手はヒバリに届くことなく、体ごとソファーに沈んだ。
これでしばらくは静かになって、仕事ができるだろう。情けでクーラーは付けっぱなしにしてやる。
・・・まぁ僕も世界で二番目くらいは幸せなのかもしれないね。
言ってやらないけど。一番好きな奴と、その人とともに過ごせるのだから。
本気は目をみて言え、嘘は目をそらして言え。
今日は何の日でしょう?
四月一日!エイプリルフールなのです。
4月1日の冗談ってことで一つよろしくお願いします。
