日に日に彼は痩せ細っていった。
ーーcalling
もともとガリガリで、筋肉は無さそうで最低限レベルの肉がついてる程度。
ひょろんと背は高かった。
年だけあって骨っぽくもあったけれど、それも今と比べたらかわいいものだった。
太子が倒れてから二ヶ月弱。似合わない我慢でもしたのか、医者にかかったときにはすでに手遅れだった。
翌日からすぐに寝たきりになった。
まともに動けないくせに側女の目を盗んでは何度も抜け出す馬鹿。
「死にたいんですか!?自分の身体労ってください!」
「ごめんねぇ、妹子」
眉をさげて笑う彼は、肩の荷が降りたようだった。
誰よりも権力争いを嫌っているのに、産まれた時から巻き込まれていた彼にとって最初で最期の休息なんだろう。
とても和やかな笑顔だった。
どうあがいても立ち上がれなくなり、生活空間が自室のみになった彼に僕は仕事の合間を縫って会いにいった。
邪魔をする太子がいなくなり残業の必要性も薄れ、仕事は楽になったが、反して事務的になった。
たんたんと仕事をこなした。熱いものはいつしか消え失せていた、僕が国だけでなく「聖徳太子」のために働いていた証拠となった。
「ねー、妹子」
「なんですか?」
「お願いがあるんだけど。一生のお願い」
聞いてるこっちが苦しくなるような咳をした。
この人はまさか死ぬ刻がわかっているんだろうか。
「───いで。
私が死んでも、妹子は───き─ね。これ摂取命令!」
お願いじゃなかったんですか?
太く短い蝋燭の火が消えた。
寝ているだけに見えても徐々に氷に近づいていく体。
彼の弔いがすむと、人々は彼と親しかった僕に話しかけてくる。人々は尋ねた。
「泣かないの?」
いまにもあふれだしそうな涙を飲み込み逃げだした。
──あなたは残酷だ。
『泣かないで』
『私が死んでも、妹子は泣くの禁止ね!』
泣かせてください。
流せば忘れられるかもしれないのに、それさえも許さないなんて傲慢で酷だ。
感情を流さずに体の中に秘めて、忘れるな。薄れるな。ずっと考えていろ。
忘れるなんて許さない。
死んでも解放しない私を恨むか?
恨んでいい、ただ忘れないで。
妹子の片隅でいいから私を住みかをくれ。
恨めるわけあるか。
忘れるなんて、あるわけないでしょう、アホ太子!
あんたのアホな顔アホな行動アホすぎる言動全部忘れられるもんか。
そんなに忘れられたくなけりゃ戻ってくればいいんだ馬鹿やろう。
じゃなきゃ連れてってくださいよ、馬鹿。
ほんとアホなんだから。
アホ太子。
面倒だからのんびりと、また会える日を待つことにしますよ。