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BABY☆pop star  --初対面--



「はぁ……」 そばでため息をついた友人、どうしたんだい?悩み事?と聞くと、心配してくださってありがとうございます、彼らしく苦笑した。
「話すといいんだぞ!ヒーローは友達は全力で助けるからね」
菊は少し考えるように首をかしげてから言った。
「アルフレッドさん、私に妹がいるのはご存知ですか?」
「初耳だよ」
「でしょうね……」
それがどうかしたのかい?聞けば、また深くため息をついた。
「いえ、私の妹、私以上に人見知りで私以上にヒッキーなんですよね」
菊は、友達がいないっぽくて、と愚痴りはじめた。
「オレに良い考えがあるんだぞ!」
ぴこん、と古くさい効果音がなったが、反して菊は、えー、と眉をひそめた。
ヒーローははじめは反対される運命なんだぞ!







兄に引きずられるままに、菊、という兄の友人宅まで来た。
菊というのは兄とは正反対の性質を持つ日本人で、その容姿はひどく軟弱そうで細っこい。素直にそう伝えると、日本人はこんなもんですよ、と苦笑されたのは記憶に新しかった。
兄と、タタミの部屋に案内されて、ザブトンとやらに座る。床に座るのは落ち着かないがこれはこれで楽かもしれない。
「菊の妹と友達になってやるんだぞ?」
「はいはい」
兄の言葉を聞き流して、出された茶菓子をむさぼっていると、ドアが開いた。
「お待たせしました。……ほら、日本さん挨拶しなさい」
「日本、と申します。……よろしくお願いいたします…」
菊に手をつながれ、出てきた彼女。
日本は、それはそれは小さくて、はかなげで、神秘的な可愛い子だった。
あまりに世界の違うその姿に、あたしは少しだけ威をそがれる。
「よろしくなんだぞ!オレはアルフレッド・F・ジョーンズ」
「あたしは妹のアメリカ。よろしく!」
兄に後れをとりつつも、にこにことそう言えば、おずおずと日本は顔をあげた。
「お二方とも、お話は伺っております」
「そうなのかい?」
「ええ……素晴らしいヒーローだとか」
菊がその様子を微笑ましく眺め、あ、お茶菓子買ってきましょうか。とふたたび席を立つ。兄も手伝うよ、とたちあがった。
出かけざまに、上手くやるんだぞ!と兄に耳打ちされる。
あたしはヒーローの笑みを浮かべて頷いた。
兄から聞いただけのときは乗り気ではなかったが、弱きものは助けるのがヒーローよね!と今では使命感に燃えていた。
二人きりになり、考えるのは苦手だが思案する。
聞く話によると、この子の兄もひきこもりだったらしく、それを家から大学に連れだして、脱ヒッキーさせたのは他ならぬ我が兄だと言う。
ならばその妹を助けるのはあたしの役目ではないか。
兄とて、自信がないからあたしに相談してきたんだ、と意気込んだ。
手始めにめざせ友達である。
しかしあの小さな菊よりずっと小柄でおとなしそうな日本、どんな話をすればいいかわからなかった。
悪く言えば地味、よく言えばミステリアス。アジアの肌とオニキスの髪と目はそれを強く印象づける。はかなげで、神秘的なこの女の子と低俗な話なんてできるんだろうかと思うほどだった。
「なんとまあ、ジョーンズさんの妹さんは巨乳でしたか」
──見かけだけは。
「へ?」
「兄さまは渡しませんよ。そこいらの男子と違って巨乳にさほど興味はないのですからね、このホルスタイン。乳だけで男が落とせるとお思いで?冗談じゃないです、はしたない」
一気にまくしたてられた言葉。
空耳かとも考えたが、落ち着いた声音はたしかに日本のものだ。
「はぁ?ホルスタインってなによ」
「牛のような胸ですね、と言っているのです」
それは誉めているのかけなしているのか。
「米国の方はみんなそうなのですか?ほとんど裸ではないですか、はしたないです」
「肝心なとこさえ隠してれば、問題ないね」
「……そんなことしても、兄さまは落ちませんからね」
「落とす気ないし」
誰があんな貧相なガリガリ。
とりあえず見かけや、兄から聞いた話と180度違うぞ。どこが引っ込み思案でおとなしい、んだ?
病弱かどうかはわからないが、これは少なくとも人見知りではないし、この体格(日本よりずっと背が高いという意味で)のあたしにタイマンでここまで言えるところを見ると、相当気は強いとみた。
だが、アジアのわりに肌の白いこと白いこと。
日の下で遊ぶことの多く日焼けしているとはいえ、白人の自分よりずいぶん白かった。
「……あたし、アンタと友達になりにきたんだけど」
「間に合っております」
あたしアンタの兄貴に友達いないんで、なってあげてください、って言われたんだけど!?
本当に、人当たりのいいあの菊の妹だろうか。
腹が立つ、がヒーローはめったにキレてはいけない。勢いよくたちあがった。
「ゲーム、やるわよ!」
「やらせてください、の間違いでは?……こちらです」
すっと日本がしとやかな仕種でドアをひく。
少々乱雑に本が置かれたその部屋には大きめのテレビ、そしてWii。一時期兄が菊に借りていた体を動かすゲームだ。
その楽しさを思い出して、おもわず笑顔になる。
「あ、これやりたい!やろうよ!」
「……?……私も、ですか?」
日本は、少し戸惑ったような表情をした。
無表情と愛想笑い以外の初めての表情だ。
「そう。菊の妹だもん、できないわけないよね?」
「……受けて立ちましょう、ただし手加減はいたしません」
「望むところ!」




「ただいま戻りました……あれ、日本さん?」
「わお、ゲームしてら。もう友達になったんだね!」
やるじゃんアメリカ!後ろで兄らの声が聞こえた。
だが今はダンスゲームの真っ最中で、よそ見などできない。
あんなに小さな体のどこからそんなに俊敏に動けるのか、恐らくこちらと違って最小限の動きですましているのだろうが、日本はものすごく強かった。
「あーっ!こんにゃろ……!」
抜かされた。これで1対5、もう後はない。が、追い付けることもなく、日本のほうにWINERの表示はでた。
「はぁっ…、……私の、勝ち、ですね」
「〜〜っ!も、もう一回!」
やれば今度こそ!意気込んで日本の方を向けば、その瞬間、彼女の体は崩れ落ちた。
「………え?」
「日本さんっ!」
菊がかけよって、その体を抱き寄せた。汗ばんだ額に慣れた手つきで手をのせる。
「ああ、熱が……高いですね」
「…………兄さま。……ご、めんなさ…っ」
「喋らなくていいですから、ほら、ゆっくり呼吸して」
ごほごほ、と咳こむ日本。
兄が慌てて菊に、水を渡す。
「ありがとうございます。日本さん、飲めますか?」
日本はそれを少しだけ口に含むと、またぐったりと彼の腕に寄りかかった。
体格の乏しい菊に変わって、兄が彼女をベッドに運んだ。



「まったくもう、無理に誘って!日本人は断れないんだぞ!」
「ご、ごめんなさい、あの子が病弱だって忘れてて……っ」
先ほど兄にげんこつを落とされた頭を撫でつつ、菊と彼女に頭を下げる。
「いえ、自分の体調に気を使えなかったあの子が悪い。謝らないでください」
かたわらでは日本が眠っている。その額にはひえピタが。
日本は体が弱く、運動するとすぐに熱がでてしまうそうだ。
「……また遊びにきてくれますか?アメリカさん」
すまなそうにそう言った菊に、こくりと頷くと、彼は優しくほころんだ。







日本が全快したと、3日してから聞いて、一言本人にも謝ろうと本田宅に訪れた。
がら、とふすまをあけると、そこには予想外の人物がいた。
「……イギリス?なにやってんの」
「何って……と、とも、友達の家に遊びに来て、なにが悪いのよ!」
彼女のそばにいた日本が、こちらに警戒心をあらわにする。
なにを勘違いしたのか、イギリスが不安そうに彼女を見た。
「友達……日本、め、迷惑?」
「いいえ、すごく嬉しいです」
日本はイギリスの服のはしをつかんで、はにかむ。
なんだ、この二匹の猫かぶりようは。
不快に思ったが、今日来た理由を果たさないわけにもいくまい、二人の雰囲気を無視して話を切りだす。
「日本、こないだはごめんね。アルフレッドから聞いてはいたんだけど、忘れてて」
「ちょっと、アンタ日本に何かしたの?」
「イギリスさん、些細なことです。……あなたに謝ってもらういわれはありません、アメリカさん」
日本はこちらを向こうともしない、イライラを押さえて手を差しだす。
「でさ、改めて。友達になろうよ!イギリスよりマトモよ?」
「……考えておきます」
「Oh my god!それ日本人的にはNOって聞いたぞ?なんで!?不満でもあんのー!?」
普通はここで相手がほほえんで、友情がはじまるはず。
神に嘆いていると、日本がじと、と睨んできた。
「私、あなた嫌いなんです」
「……どうして?」
「……あなた、私のこと見下しているでしょう。東洋人だから?病弱だから?……友達になってあげよう、って気が見え見えです。兄さまに頼まれましたか?お得意のヒーローごっこですか?大きなお世話です、私はそうまでしてそのていどの友を得たいとは思いません」
いろんな驚きや疑問や憤りが邪魔して、言い返せないでいると、日本はアメリカと同じように拍子抜けしたらしいイギリスの手を引いた。
「ぶぶ漬けでもお出ししましょう。無知なあなたのために念のために申しあげておくと、意味は、食べたらお引き取りください、です。……ごめんなさい、イギリスさんもお帰り願います」
「……いいよ、今日は帰る」
「ちょっと、アメリカ!?」
まさか、そんな風に思われてたなんて。
ショックで、美味しい本田家のごはんも食欲をそそらなかった。




「ねー、アニキ」
「なんだい、ちょっとゲームの最中で手が離せないんだけど」
カチカチ、とPSPと言う小型ゲーム機に悪戦苦闘している兄。
相談にものってくれないのかちくしょう、悔しくて目の前の男のストライクゾーンにブーツで蹴りをかます。
よっしゃ命中!男は転げまわって悶絶する。
気分イイ。あ、もちろんこっちもゲームね、PS2!
「菊とさ、どうやって友達になったの?」
カチカチ、ゲームを続けながら兄は答えた。
「んーと、既成事実、かな!……よっと!」
え、それって男女がやるものじゃないの。
「押して押して押しまくって首をたてに振らせるのさ!日本人は流されやすいからね!……っあああー!落ちたー!」
兄はガジャン、とPSPを投げた。こうして兄の持ち物には傷が増えていく。







「……なぜ水着のような格好なんですか。兄さまを落とす気ですか。絶対落ちませんよ」
「落としたくもないって!これはあたしのスタンダード!あたしからすれば、アルフレッドやアーサーの前で猫かぶってるアンタのほうが、男狙ってる気がするし!」
「私はあれが普通です。あなたの前が特別なんです」
「えっ、あたし期待しちゃっていーの?あれって特別扱い?」
「変な方向に勘違いしすぎです!あなたなんて好きでは、」
「って、ああー!必殺食らったー!」
「ちょ、我が家のコントローラー投げないでください!」
「ごめんごめん」
カチャカチャカチャ、日本の体を気遣い、本田宅で体を動かすWiiではなくPS2だ。
今度はあたしもやったことあるゲームだが、さすがはオタクの妹。強い強い。
こうしてゲームをしにくるようになって数日経っているけれど、未だにあたしの勝利数は限られている。
「日本さん、楽しそうですね」
菊が茶菓子を持ってきた。今日はモナカらしい。
ころり、と日本が先ほどとは態度を一変して、にこやかに微笑んだ。
「兄さま。わざわざありがとうございます」
「ありがと、菊」
「イギリスさんにつづくお友達ですからね。しがない兄ではありますが、歓迎させてください」
あたしといるときはもっぱら無表情の日本は、他人、特に菊の前でははにかみ笑顔になる。
これぞ大和撫子、菊のまえの日本はまさにそれだ。
兄弟そろってその笑みは一種の聖的な雰囲気をかもしだしていた。
「……兄さま原稿中ですよね、本当に手伝わなくて良いのですか?」
「んー、Rつきですしね」
「他の方ならいざ知らず、私の年くらいご存知でしょう兄さま」
「完全男向けなんですよ」
「兄さまと同じように、なんでも美味しくいただけます」
「……厳しくなったら、お願いしますね」
「はい」
よくわからない、いわゆるオタク会話を交わして菊が退場した。
日本のまとう雰囲気が、ガラリとかわる。
「私とあなた、友達なんかじゃありませんよねすみません」
「えー、友達がいいんだけど」
「他人が一番適切かと」
「さあ続きやろう!友人日本!」
「ええそうですね通りすがりAさん」
「ひっどぉ!」
おちゃらけて、ポーズ状態のゲームのスタートを押そうとすると、日本が咳こんだ。
大丈夫?と背中をさする。不服そうに顔を歪める日本に苦笑して、治まるまでその小さな体をなでた。そしてすっくと立ちあがる。
「さーて、そろそろ飯だし、帰るね!」
運動すると熱が出る。だが、しなければ決して出ないというわけではない。そう菊から教えてもらったので、ある程度以上の時間は遊ばないようにしている。
のんびりするのも有りだが、アメリカを猛烈に嫌っている日本相手ではゲームでもしないと時間が持たないからしかたなかった。
きっと彼女はそれに気付いていて、あたしに気を遣われることも嫌なんだろうけど、こればっかりはどうしようもない。
「まだそんなに疲れていません。……それと、今日の夕食当番は私なんです」
「うん?」
先の咳で少し赤みがかった顔をした日本が言う。
「ジョーンズさんをお呼びしていただけますか?お二人とも、ご馳走させてください」
「マジで!?やった!本田宅のご飯は美味しいってアルフレッド言ってたのよねー。あ、ねぇねぇ食事に招待、しかも手作りって親友レベル?」
「……お兄さんの、オマケレベルです」
日本の飯はそりゃあ美味しかった。ちょっと量足りなかったけど。





長かったけど(ゲーム期間が)、ようやく友達ね!
腹一杯になった帰り道、隣をゆく兄に戦果を報告すると、喜んでくれると思いきや、難しい顔をした。
「アメリカ、あのな、日本人には社交辞令っていう文化があるんだ」
「シャコージレー?」
「その気もないのに相手を誉めたり、家に招待したり、飯をおごろうとする変な文化なんだぞ!」
オレそれで本当に友達になったあと、ぐちぐち文句言われたんだ。
「だから気をつけろよ!」
「え、じゃあ今日のもそれってこと?っつーかそんなのどうやって見分ければいいの?」
「オレたちが見分けるのは至難の業なんだぞ。他の日本人なら見分けられるけど、そこにも社交辞令が出て本当のことは教えてくれないんだ」
なにそれ。わっかりにくい文化ぁ!
「社交辞令は、本当の友達になるとちょっと減るんだぞ!」
え、じゃあなに、社交辞令もらったあたしまだ友達じゃないってわけ!?











にょたりあ生徒会活動では、メリ子と仲良くなってから、英子と仲良くなります。だからちょっと別のお話。

アルフレッドは菊から聞いたことをさも理解しているかのように喋ります。間違ってないけど、つかみはおかしい。そんなアルフから聞いたので、メリ子はますますおかしい解釈に。
ちなみに菊は”友達になってあげよう”なアルフレッドを認識した上で受け入れました。受け入れられないのは菊よりはまだ経験の少ない日子w
でも毎日遊んでいるうちに、天真爛漫なメリ子に惹かれていきます。

10.3.28