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PSE



オレは興奮していた。
自分が普段から往々にして明るい人間だという自覚はあるが、今日は一段と機嫌が良い、ここ数年内では一番ではないかと思えるほどだ。
何年も異動願いを出してきた部署に、ようやく配属が決定したのだ。
自分の力が認められてのことではなく、恐らく隣を歩く世間一般には優秀だという兄のおかげかと思うと胸糞悪いが、規格外の喜びを前にそのマイナスは微々たるものである。

「アル、ちゃんと三人のデータ見て、合いそうなの選んだろうな?」
「見てないぞ」

その部署はパートナー制を導入していて、オレもすぐにパートナーと行動することになっていた。
ちょうど”彼ら”の空きが三人出たとかで、各個人の詳細なデータをアーサーから渡されていたが、目を通してはいない。

「おまえなァ」
「書類だけで判断するなって、よく君が部下に言ってるじゃないか」
「それにしたって、おまえのは異常だ」

パートナー候補とやらがいる部屋が見えてきた。
どんなヒーローがいるんだろう、いや、子供だったり、美しい女性だったりもするかもしれない。そういう力は外見にともなうことはないと聞く。
どうせなら、スーパーマンやスパイダーマンみたく格好良いヒーローと組みたい、そうして正義を貫くんだ。
そう思って、勢いよく扉を開けた。
部署の本部である、さすがに人が多くてどの人物が”彼ら”なのかはわからなかった。
オレが彼らについて知っているのはその三人の通称だけで、Fy,Kiku,Ruiという名前くらいだ。
パソコンをいじっている者、黙々と本を読みふけっている者、山のような資料を運んでいるもの、さまざまであった。
アーサーに引っ張られ、署長とやらのところへ向かう。豪傑そうな男だ。

「デン」
「おお、アーサーじゃねぇけ。そっちのがジョーンズだなぃ?」

北方の訛りの強い署長、デンは、にかっと手をさしのべてきた。
ぎっちり握り返し、こちらも笑みを浮かべて挨拶とした。

「さっそくだけんど。ルイ、キク、フィー、こっちゃこーい!」

デンが大声を出すと、一瞬遅れて、現れたのは屈強なオールバックのゲルマン人。
文字通り、突然現れた。テレポートってやつだろう、俄然ヒーローっぽくて、オレは興奮をあらわにする。こいつと組みたいな、と思った。
ゲルマン男に少し遅れて、二人がとことこ歩いてきた。
ヒーローにはほど遠いひょろくて平和そうなラテン系と、幼さの残るアジアの女の子だ。

「右から、ルイ、フィ、キクんだ。こっちがアルフレッド。おらんとこの部署に配置された。仲良くすんべ」

ゲルマン男がルイ、ラテン系がフィ、アジアンがキクというそうだ。デンはキクの小さな背をバンバン叩いて愉快そうにする。
その力の強さにか、キクは軽く咳き込んで困った顔をしていた。

「アル、誰にする?まあ……お前の好みそうなのは、Ruiか」
「いーや。キクにするんだぞ。だってオレがヒーローなんだから必要なのはヒロインだしね!キク、オレ、君と組みたいな。いいだろう?」

だって、確かにアーサーの言うとおり、ルイを見たときはかっこよくて気にいったけど。
キクはそれをはるかに上回って、すっごくすっごくキュートだったんだ。
今している無表情も、オリエンタルでとても気に入った。
俗に言う一目惚れである。

「そっがーキクか。ええコンビになれよ!んで、フィとルイはまだしばらく組んどけな」

バシッと今度はフィとルイに張り手をすると、忙しそうにデンは歩いていった。
キクはといえば、小さくため息をついてオレを見る。真っ黒な眼にドキドキした。小さく会釈してきた。

「菊、本田と申します」
「オレはアルフレッド・F・ジョーンズ。よろしくなんだぞ」

キクの意外と低い声に面食らう。

「ジョーンズさん。勘違いなさってるようですが、私は男です」

告げられた事実にさらに驚くが、困ったような顔がひどく可愛い。

「そうなの?でもオレには関係ないよ!君が好きだ」

”彼ら”ならオレの心も読んでしまうんだろう、隠せないのにしまいこんでいても仕方がない、とオレはいきなり想いを告げた。
横ではアーサーが、そして他二人のエスパーがあんぐり口を開けているが、知ったことではない。オレが気になるのはキクの反応だけだ。
キクがバター色の肌を真っ赤にしていて可愛かったので、思わずオレは小さな体を抱きしめた。

「キク可愛いーっ!」
「……っ!」
「何してんだアル!」

アーサーの怒声が飛んだかと思うと、見えない力にひっぺがされた。
マンガで知ってる、サイコキネシスというやつだ。視線からしてルイの力だろうか。
赤く染まったままのキクを庇うように、ラテン系フィがオレを睨んできた。

「キクはオレらのなんだからね!」

フィの言葉にすぐさまルイが拳骨を落とす。

「……ったあー!なにすんのルーイっ」
「キクをモノ扱いするな!……すまんな、言って聞かせておく」
「いや、こっちこそ弟が悪い」

何故かアーサーが謝る。気づけば和やかムードに突入していた。

「悪いなキク、組んでやってくれるか?」
「ええ、断る理由はありませんから」

にっこり、と花開いたような微笑とともにキクはアーサーに返事をした。
知り合いなんだろうか、と思われるほど空気が濃密だ。

「キク、本当に大丈夫なのか」
「そーだよー、心配だー」
「大丈夫ですよ、ありがとうございます」

キクはフィの手を取って、優しくつつんだ。オレもやってほしい。
とりあえずひとしきり別れを満喫したらしい三人の会話が途切れたころ、ルイがさっと二枚の書類を取り出す。

「あー、さっそくで悪いが、デンから仕事をあずかってるぞ」
「いいね!さっさとやろう」

オレはそれを二枚ともかっさらった。
制止の声も聞かずに、キクの手を引いて飛び出す。
書類はしっかりつかんでいたはずなのだが、うち一枚の書類は宙を浮いて、ルイの手元に飛んでいった。
仕方ない、エスパー相手に戦ってもな、と一枚の書類をあきらめ出口に向かうと、いつのまにかアーサーがいた。

「アーサー、エスパーってやっぱりカッコイイね。一応感謝しとくんだぞ」
「バカ、エスパーじゃねぇサイキックだ!」
「どっちでもいーだろ」
「……キクを大事に扱えよ。お前は替えが利くが、サイキックたちはきかねぇ。中でもキクは一番使えるんだ」
「君に言われるまでもないね!」

握った小さな暖かい手。柔らかな物腰。誰がなんと言おうとも、たとえ男でも、キクはヒロインでオレがヒーローだ。
オレが今日から配属された部署。

特殊能力極秘調査機関部、通称PSEである。



  *



「ジョ、ジョーンズさん。手を離してもらえませんか」

恥ずかしそうにしているキクを見て、オレはようやくその手をつかんでままでいたことに気づく。
すぐに離した。

「さっきも言ったと思うけど、よろしくなキク。そうだ、アルって呼んでくれよ」
「はい。よろしくお願いします、アルさん」
「とりあえず、さっさと現場にいこう」

署の駐車場に向かって、自慢のアメリカ車にキクをのせる。
事件発見場所に向かいながらも、隣に乗るキクにオレは内心ドキドキしていた。

「エスパー……じゃなかった、サイキックってどんなことができるんだい?」

彼らSPEは、サイキックの力をフルに活用し、さまざまな警察の機関に協力していると聞く。

「さっき見たやつはテレポートにサイコキネシスってやつだろ?」

ルイとかいうゲルマンがやっていたものだ。
地球の裏側までテレポートしたり、空を飛んだり、車を持ち上げたりできるんだろうか。この小柄なキクが。

「……言っておきますが、貴方の想像している、浮遊、サイコキネシス、転送などは私はできませんよ」
「そこまで力は強くないってことかい?」
「いえ、才能がないので」
「え!?じゃあ君は何ができるんだい?あっ、でも他にもあるか」

なんだっけ、ファイヤー……は魔法か。エスパーがやることといったら。

「あ、予言?」
「未来を当てるのはフィくんの能力です」

他に何があっただろう。テレパス?千里眼?ああ、リーディングを忘れてたな。

「私の力はリーディングの一種。私は、過去の全てが読めます」
「?」

言ってる意味がわからなくて首をかしげると、キクは少し悲しそうな顔をした後フイと顔をそらした。

「おいおいわかりますよ」


そうこういってるうちに、現場についた。
活気溢れる公園にバリケードが引いてあり、警察の制服を着たものがチラチラと見える。
資料によると今朝起きたばかりの殺人事件らしい。
キクを引き連れて近づいたが、キクは日本のキモノに周囲の視線を集めたまま、空を見ている。
こちらに気づいた新人がバッと敬礼する。

「ジョーンズ刑事!お疲れ様です」
「やぁ、捜査状況を説明してくれるかい?」

はい!と元気に返事をすると、がさごそとメモ帳をとりだした。
説明をはじめた新人をさえぎってキクが言う。

「必要ありません」
「はい?」

キクは相変わらずどこを見ているかよくわからなかった。
周囲に風は吹いていないのに、キクの着物と髪は、宙にふわふわと揺れていた。
まるでキクのまわりだけ風が吹いているようだ。

「……欲しい情報は全て得ました」

ああ、リーディングだか千里眼だかかな。キクはそっちの力のほうが得意なんだろう。
新人はきょとんという顔をしてオレに聞いた。

「ジョーンズ刑事、こちらの方は?」
「PSEのサイキックだよ」

新人はぎょっと、目を見開いていたが、面倒なので放置した。

「君がリーディングでわかってても、オレはわかんないんだぞ!」
「貴方の役目は、私の護衛とサポートだけですよ」

無表情で言い放つその言葉に少しムッとする。
こっちだって刑事として何年もやってきてる。刑事でもなんでもない若いキクにそういわれて、腹がたたないわけがなかった。
文句を言ってやろうとしたが、キクが突然、パチッとオレと視線を合わせた。

「アルさん、七時の方向にいる黒い帽子の男!犯人です」
「っ、Okay!」

よくはわからなかったが確保せよということだろう。言われて条件反射的に体が動く。視界の端に黒い帽子は捉えていた。
後は人ごみを力で押し分け、こちらに気づいて逃げようとする男に、オレは全力でタックルした。

「逮捕する!容疑は殺人だ!」

勢いよく倒れた男に、問答無用でオレは手錠をはめた。

「よーく聞けよ!君には黙秘する権利がある、発言は不利に使われる可能性もある。それに……」

オレはパートナーの功績に、鼻高々と権利を読みあげた。



  *



景気よく捕まえたはいいが、男は殺人を認めなかった。
こちらには物的証拠はない。あるのはキクが能力で手に入れた情報だけだ。
男は黙りこくっていたが、キクがそろそろと出ていって、少し話をすると、ぽつぽつと自供し始めた。

「何をやったんだい?」
「別に。あの方の良心に訴えてみただけです」
「ってことは、キクはリーディングが得意なんだ?」
「ええ」

キクはまたフイ、と目をそらしてしまった。
リーディング、心を読むのが専門のエスパーか。
オレが期待してた類の超能力はルイってやつが持ってる、スーパーマンもどきだったけど、キクのほうが警察には向いているのかもしれない。
何せ目撃者に聞かなくても犯人の容貌がすぐわかるし、事件がおきたばかりなら、今回の件のようにすぐに捕まえることだってできる。
かっこいい。かっこいいよ、キク。
もしかしたら、オレは一番凄いエスパーと組んだのかもしれない。アーサーだって、そんな感じのことを言ってたし。
キクは過去がどうのとか言ってたけど、それはどういうことだろう。

「私は、過去においてのヒトの記憶、思考、感情を読みます」
「へぇ、そうなんだ」

オレが認識しているものとの違いがよくわからないが、とりあえず頷いた。

「わかっていないようですね」

はぁ、と小さなため息をつかれた。
心が読まれるっていうのはこういうことか、嘘がつけない。それどころか。

「……気味が悪いでしょう?」

低い声にキクを見やると、黒い双眸がオレを見あげていた。

「皆、私の力を知ると離れていきました。あなたも、付き合うのは仕事のときだけで結構で…………は?」

キクの言葉が途中で止まる。
多分それはオレの心を読んだからだ。

「読んでるんだったら、わかるだろ?」

オレの思ってることくらい。
好きになったキクとはなれる気はないよ。
ニコニコ笑って、キクを見た。キクは少し頬を赤く染めていた。

「あんまり読まないでくれよ!いつ君との妄想に励んでいるかなんて、わかんないんだから!」
「はっ、破廉恥ですーーー!」

この根暗でネガティブなエスパーには、オレくらい明るいヒーローがついてないと、駄目だろ。










無駄に枢軸をセットにしたがる鼠です。
警察とか好きですけど、全然内部構造知らないので割愛させていただきます

一応、日独伊以外では、リヒ、諾、芬などが超能力者の予定です。パートナーもろバレ☆
またしても描きたいところまでいってないので、しかも↑の子たちの力まで振り分けちゃったので……つづくかも。

09.12.25